ここで紹介するのは、1967年3月7日付の赤旗紙に衆議院議員(当時)松本善明氏が発表した、「真実をつくりかえることはできない」という力強い表題の論説です。氏はここでも、「正当防衛論」を主張されていて、実際に「正当防衛権」を行使したことを言明しています。
2000年8月30日 猛獣文士


真実をつくりかえることはできない
――日中友好協会襲撃事件と正当防衛について――
松本善明

 日中友好協会襲撃事件について各界で憤激の声が高まっていますが、同時に商業新聞の報道が事態を正しく伝えず、理非曲直もあきらかにしていないので、事件の真相と責任の所在をあきらかにしなければならないと思います。

 日中友好協会の本部事務所は善隣会館の中にあって、財団法人善隣会館との間に正式に賃貸借契約が結ばれています。したがって日中友好協会の運動にたいしてどのような意見をもっているものであろうと、この事務所から日中友好協会を実力や暴力で追い出すことはもちろん、事務所に所用で出入りする協会の会員や事務局員、その他の人びとの通行を妨害するというようなことはできないのです。この道理は在日中国人であろうと日本人であろうと同じです。

 ところが日中友好協会を事務所から実力ないし暴力で追い出し、その事務所への出入りを妨害する行為が公然とおこなわれたのです。その証拠は山のようにあります。私自身も協会事務所にはいることを阻止された一人です。だからこそこのような妨害行為を排除する仮処分も出されたわけです。そして、このようなことは、刑法上では威力業務妨害罪にあたるので、仮処分がでるでないにかかわらず、警察はこのような行為をただちに排除しなければならないのです。通常のビルの入口で通常の商社にたいして動揺のことがおこなわれた場合を想像するならば、これはまったく議論の余地もないあたりまえのことです。だから、いまは、警察もこの妨害行為を排除せざるをえなくなっています。

 ところが、この明白な違法行為、犯罪行為が長時間にわたり警察官の目の前でおこなわれたということに、この事件の特徴があるのです。その意味では、警察官の事実上の支援のもとにこの事件がおこなわれたということです。襲撃は、二月二十八日、三月一日、二日と三たびにわたっておこなわれています。日中友好協会正面のトビラはバリケードで封鎖され、そのうえ部厚いピケをはって、中にいる人は便所にもいけず、食糧の持ちこみもできないようにされました。こういう状態が夜中にいたるまで長時間つづき、監禁された人は女子でもバケツに用を足さなければならないというほどの悲惨な状態におとし入れられました。

 警察官は、三月一日午後九時ごろ最初の「一一〇番」への連絡がなされ、それから数回の連絡でやっと十時ごろやってきたのですが、日中友好協会への出入りを妨害しているものはそのままにしておきながら、協会本部にとじこめられている人たちの安否を気づかって集まった人たちに、解散を命じ、実力行使をしようとさえして解散させたのです。

 三月二日になっても妨害の状態はかわりませんでした。中国人学生の中には「フレーフレー機動隊」と声援するものもあらわれたのです。こうしたなかで、一人で便所へ行こうとした日中友好協会常任理事森下幸雄氏はじめ十数人の重軽傷者がでることになったのです。警察は、「生命、身体、財産を保護し、犯罪の予防」(警察法二条)をすることを一つの大きな任務としているにもかかわらず、その任務をはたさなかったのです。また警察が任務をはたさなかったからこそ、長時間にわたり、くりかえし犯罪行為が行われ、犠牲者が発生したのです。

 刑法にいう正当防衛は「急迫不正の侵害ニ対シ自己又ハ他人ノ権利ヲ防衛スルタメ已ムコトヲ得ザルニ出デタル行為」ということになっていますが、まさに正当防衛に出なければ権利を守ることができない状態になっていたわけです。そして、このような違法の状態は、正当防衛の権利行使と大衆的な警察に対する抗議、仮処分によって排除されることになったのです。

 いま自分たちの行為について弁明の余地のなくなった暴力行為を働いた者たちは、自分が暴力行為の被害者であるかのようにいいくるめようとしています。しかし、真実をつくりかえることはけっしてできません。事件が中国人学生の住居である三、四階でおこらずに日中友好協会本部の出入口でおこったという一事だけでも、だれが不法な攻撃者であったかを明白に証明しています。会館内に居住する中国人学生を実力で退去させようとしたり、その出入を妨害したものは一人もいないし、そのようなものがあったという主張をするものもいないのです。事態の真相はきわめてあきらかです。

 私は、事実にもとづいてだれが不法なのかをあきらかにしたのですが、問題はこのような行為がどんな意味をもっているかということです。この暴行行為のなかで、全学連中央執行委員に、「三角帽子をかぶせろ」といってこづきまわすというようなやり方がおこなわれたり、過去に日中貿促労組や「はぐるま座」争議団事務所にたいする対外盲従分子の暴行がくわえられたこと等を総合して考えますと、日本の民主運動にたいして外国の一部勢力から干渉がおこなわれ、そのために暴力が行使されているということを発見することができます。

 このようなことはどのような外国勢力によっておこなわれようとも絶対に許すことのできないものです。またそれだけではなく、日中友好協会にたいする暴力的な攻撃が、日本の人民と中国の人民の真の友好を破壊しているということです。日中友好協会は周知のように、両国人民が。自主、平等、内部問題への相互不干渉の立場を守りながら、思想、信条、政派の別をこえて、日中国交回復に賛成する人びとをはば広く結集する運動をすすめています。この方針以外に広範な日本の人民が中国との友好運動に参加する道はありません。特定の外国の指導者のいうことや、中国でおこっていることを無条件で礼賛しなければ中国と友好運動ができないというような方針が、日本の人民の支持をえることができないということは、事態の発展のなかで証明されるでしょう。

 まして、そのような方針を無理にも他人におしつけようとし、その方針に従わないものを暴力で攻撃するということは、ますますもってゆるされることではありません。この暴力的攻撃が、いま真の日中友好のために真剣に運動をすすめている日中友好協会にむけられているということは、きわめて重大だといわなければなりません。

(衆議院議員、弁護士)

(赤旗1967年3月7日)

[先頭][Home][日本共産党側資料目次]