[為替相場]

(1)よい円安と悪い円安と−真壁昭夫(6/21) ***

足元の為替市場は、堅調な米国の経済指標をきっかけに積極的なドル買いにより、一時、約13年ぶりに1ドル=125円台後半まで上昇する局面があった。

一般に円安傾向が進むことは、わが国経済にプラス要因として見られることが多い。自動車など主力輸出企業は輸出の手取り代金が増加する。海外展開した企業も同様である。企業が儲かるようになると、株価が上昇する可能性が高まる。資産効果により、人々は多くの金を使うようになるかもしれない。モノが売れるようになると、企業経営者は投資活動を活発化するようになる。また、株価が上昇していると、人々は景気がよくなりつつあるとの感覚を持つ可能性がある。そうした心理的なプラス要因も無視できない。

一方、急激な円安にはマイナス要因もある。輸入物価の上昇により、家計の消費活動の足を引っ張ることも考えられる。輸入する食料品などが値上がりすると、消費者はどうしても買い控えなどの行動を取りやすい。そして、輸入する原材料への依存度が高い企業では、輸入品の価格上昇はコストアップにつながる。コストアップ分を価格転嫁できる大企業は良いが、それが難しい企業には収益力低下につながる。

そう考えると、円安にはよい円安と悪い円安とがある。

よい円安は、円高が過度に進みすぎた局面で是正され、少しずつ円安傾向が進むケースだ。円の価値が徐々に適正レベルに向かうので、経済に大きなマイナスの作用を与えることは少ないはずだ。具体的には、2011年10月まで続いた1ドル=75円台の超円高が少しずつ円安に向かった展開などが考えられる。逆に、その適正レベルを超えさらに円安方向に進む場合、わが国の経済活動全般にマイナスの影響が発生する。

よい円安と悪い円安を分けるポイントは、円の実力が適正に評価されているかだ。円の適正な実力は、多様な見方があるが、円の購買力を基礎に試算すると、1ドル=100円程度になるとの見方が有力だ。経済団体のアンケート結果を見ても、対ドルで100〜105円ほどの回答が多かったようだ。

そうした見方が適正だとすると、足元の125円前後の対ドルレートはかなり円安に振れているといえる。実際の為替レートは為替ディーラーなどの短期売買の影響が大きいため、適正な水準での安定した展開が難しくなる。特に、現在のようにアメリカの金利引き上げ、日本の超低金利の下で、どうしてもドル買い・円売りが優勢になりやすい。

しかし、長い目で見ると、為替レートが本来の適正は実力から大きく乖離した場合、必ずいつかは是正されることになる。為替は大手投資家の動きなどに大きく影響されるため、そうしても過度な円高・円安が進みやすい。我々は、円の適正な実力を冷静に見ることが必要だ(参考文献:信濃毎日新聞)。