[国際金融情勢]

(1)物価上昇2年で2%断念(5/1) ***

日銀が物価を「2年で2%」上昇させる目標をついにあきらめた。達成の手段となるはずだった追加金融緩和が円安ドル高を招くと、国内外から警戒され、事実上封じられたためだ。市場は次の一手を催促するが、アベノミクスをけん引してきた黒田総裁は逆風にさらされ、政策運営の手詰まり感が漂い始めた。

黒田総裁は、これほどの原油価格の下落は誰も予想しておらず、物価の基調は改善しており、目標達成の遅れを認めつつも、原油安の影響が薄れる16年度前半には2%を達成できると何度も強調した。しかし、市場関係者の見方は厳しく、市場で2%達成を信じているものは誰もいないとし、追加緩和は不可避と思われ、黒田総裁がいつ踏み切るかだと指摘する。エコノミストの間では、日銀が次に物価見通しを見直す7月か10月のタイミングで国債や上場投資信託(ETF)などを買い増す追加緩和を行うとの見方が根強い。

内閣府は「これ以上円安が進むのは容認できない。サプライ緩和はまずい」として、日銀が万一追加緩和に踏み切ろうとした際の有事の対応も議論した。金融政策決定会合で緩和提案があった場合は、小泉政務官がすかさず反対表明をすることになっていた。

物価目標の達成は、デフレ脱却を第一とする安倍政権にとっても最重要の課題だ。しかし、日銀が再度の追加緩和を行えば、円安が進んで輸入品の価格が上昇し、家計を圧迫して消費不振をさらに長引かせかねない。経済官庁幹部は黒田総裁の会見をネット中継で見て「この程度の変更ならば十分に許容範囲。政府の認識とも食い違いはない」とした。

日銀が金融緩和を拡大する中で、ドルの独歩高が進む米国の不満が高まっている。1〜3月期の国内総生産(GDP)速報値は、年率換算で0.2%増に急減速した。冬場の天候不順の影響が大きかったが、ドル高で輸出がマイナスに転落したことも大きかった。産業界は、日本の自動車メーカーが円安を追い風に対米輸出を増やしていることに苛立ちを募らせている。TPPの日米合意まであと一歩と迫る中で、ドル高を招いて米国を刺激するのはなんとしても避ける必要があるとの思惑が働いたようだ(参考文献:信濃毎日新聞)。