[国際金融情勢]
(1) イエレンFRB議長の真意(7/9) ***
イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長は、金融安定性への懸念に対応する手段としての利上げが検討されるべきだとする一部見解に、反対する姿勢を示したと報じられた。議長の真意は何だろうか。また、過去に金融引き締めで景気回復にブレーキをかけた日本のケースについて、どのように考えているのだろうか。
議長は、銀行システムにおける将来の金融危機・リスクへの対処に対して、金融政策を利用することには強い抵抗を示したという。金融危機・リスクの「金融」はfinancialだ。金融政策の「金融」はmonetaryだ。日本で金融行政というのは、前者である。米国では、FRBが金融行政と金融政策の両方を担っているため、金融(financial)行政上の課題に金融(monetary)政策を使うのか使わないのかということで話題になる。
一方、日本では、金融行政は金融庁、金融政策は日銀と組織が分化されているので、基本的には日銀が、銀行システムの将来の金融危機・リスクという金融行政上の問題に対応することはない。
その上でイエレン議長の発言を考えてみよう。議長が語った意見は、金融政策としてはオーソドックスだ。つまり、金融政策はインフレ目標というフレームワークで行われているが、これはマクロ経済のインフレ率のほか、FRBの場合、失業率をターゲットして運営するもので、ミクロ的な金融行政のために行っているのではないからだ。
多くの人がマクロ経済とミクロ経済を区別できずに考えている中で、イエレン議長は、さすがにそれらを峻別している。
銀行システムの問題を把握するには、まず銀行の検査などのモニタリングをしっかり行うことが必要だ。そして、銀行システムに内在するリスクを取り除くには、銀行規制や一般の取引規制を活用するのが先決だ。
かつての日本では株式や土地の取引規制に抜け穴があり、そこからバブルが発生し、銀行融資が助長したのだ。インフレ率からは正当化できないにもかかわらず、金融引き締めを行い、バブルをつぶそうと思ったのは、日銀の失敗であった。それは、バブルではなく、日本経済全体をつぶしてしまった。
イエレン議長は、日銀が出過ぎたことをして長期停滞を招いた日本の教訓を学んでいるだろう(参考文献:夕刊フジ)。