[イギリス経済]

(1)サッチャー革命の成果と失敗―黒岩徹(4/19) ***

サッチャー元首相の死後、その業績をたたえるコメントが溢れる一方、国葬並みの葬儀に抗議する集会も開かれ、その評価が分かれた。

彼女は正しいと信じたことのみに邁進した。教育相時代、部下の官僚が1つの施策について「人気が無い」と言った途端、「人気ではなく、正しいかどうかを聞いているのです」との雷が落ちた。官僚は彼女の信念の強さに圧倒された。

その姿勢は、父A.ロバーツから継承したものである。雑貨商からグランサムの市長にまで上り詰めた彼は、「セルフ・メードの人(自らを自分で作り上げた人)」であり、手に汗して働き人生を勝ち取ってきた。父は娘に独立自尊の人生と、信念の大切さを教えた。

確かに、サッチャー革命の内容を子細にみていくと、ロバーツ氏の姿が浮かび上がってくる。民営化、持ち家住宅の推進、過激な労組運動の弾圧といった革命の成果は、国家や組織からの自由を尊び、自ら苦学力行することこそ最高の善とする思想に支えられている。経済政策も経済学者のハイエク流の自由主義に立脚している。

その信念は、弱体化した英国の再興に役立った。国際的にも、彼女の主張する自由は、鉄のカーテンを突き破り、冷戦終結とソ連式社会主義の崩壊を後押しした。

それは、一方で弱者への配慮に欠けていた。サッチャー政権下では、弱者、敗者たちが恵まれなかった。

演説中の紙つぶてをものともしなかったサッチャー氏は、成果が上がるにつれ、ますます聞く耳を失っていった。所得の多寡に関係しない一律の地方税である人頭税をスコットランドで実施し、イングランドにも導入しようとして、ロンドンで史上最大規模の抗議デモを引き起こした。そして、ECへの頑なな姿勢で、蔵相、外相ら閣内の大半を敵に回して辞任に追い込まれた。

聞く耳を失ったとき、独裁的リーダ−は墓穴を掘るものである。人種差別的発言で失敗した英政治家イノック・パウエルは、「あらゆる政治家は失敗する」との名言を吐いた。サッチャー氏もまた失敗したのである(参考文献:信濃毎日新聞)。