[検証・大阪維新八策]

(1)統治機構(9/4) ***

橋下大阪市長率いる大阪維新の会が、次期衆院選公約「維新八策」を公表した。国と地方の関係を抜本的に見直す統治機構改革が柱の一つだ。

「親から交付税という仕送りをもらっている大学生が自立できるわけがない」。維新の会幹事長の松井大阪府知事は、公約の地方交付税廃止と消費税の地方税化の狙いを、こう説明する。ただ、大阪市の試算では、年間17兆円の交付税を国に返上して消費税を地方税化した場合に、地方側の取り分は約7兆円のマイナスとなる。この指摘に対して橋下氏は「不足分は行政改革で穴埋めするか増税するか、地方が真剣になって考える。地方に増税する厳しさを負わせるべきだ」と主張している。無駄を省く努力を促し、税率を上げるかどうかは道州制移行後の道州が判断すればいいという考えだ。

その上で民間企業と同様に自治体の破綻を認める「自治体破綻制度」創設を盛り込み、自治体により厳しく自立と競争を迫る内容と言えそうだ。

橋下氏と気脈を通じる石原都知事でさえ「税制を各自治体が自分で決めることになれば混乱が起こる。リアリティのない話だ」と否定的な考えを示す。

大阪府や大阪市では橋下氏が就任後、職員を相対的に評価する職員基本条例を制定するなど、職員の管理を強化した。大阪市では、橋下氏の意向で、職員の政治的行為を厳しく規制する条例が7月に成立した。公務員制度改革のモデルとして、大阪市の取り組みを全国に広げる方針だ。公務員の身分保障の廃止をうたい、公務員労組の選挙活動の総点検や公務員の首長選挙に関する活動制限を掲げた(参考文献:信濃毎日新聞)。

(2)教育(9/5) ***

維新八策は「世界水準の教育」を掲げ、教育行政の地方分権化を提唱し、教育委員会制度を廃止し首長が主導する体制への転換を打ち出した。競争重視の特徴が顕著で、安倍元首相の施策と類似点が多く、新鮮味はないとの指摘もある。

「悪しき平等から脱却し、理解できない子供は徹底的にサポート、理解できる子供はぐんぐん伸ばす」という維新八策に記された文言は、同会の考え方を象徴している。理解の遅い児童・生徒を別の学校に移し、学力別に公立小中学校を編成する可能性を示唆した。学力の近い児童らを集め効率的に授業を実施し、競争を促す狙いだ。

学校選択制、教育バウチャー制度の導入、校長の権限強化、大学院の質向上などの公約は、安倍内閣が06年に立ち上げた教育再生会議の検討課題と酷似している。

学校選択制は、導入した自治体でも制度見直しが始まっている。品川区によると、保護者の教育への関心が高まるメリットがある一方、人気校に希望者が集中しすぎるデメリットが顕在化している。学校間格差は、一度序列ができると解消するのは難しい。

形骸化の批判がある教育委員会の廃止論は、これまでもあったテーマの一つだ。維新の会は主張に権限を与え、責任の所在を明確化する立場だ。教育の政治的中立性を確保できるかが課題で、首長の権力で教育内容に影響を与えられれば子供たちは翻弄され、被害が大きいとの危惧がある。教委廃止論への懸念は強い。 

(3)外交・安保(9/6) ***

衆院選公約「維新八策」は、外交安全保障に関し「主権と領土を自力で守る防衛力整備」と明記し、自衛力増強を目指している。ただ、国政進出に向け急ごしらえの印象は否めず、全体構想が描けていないとの批判もある。

日米同盟機軸、中国との戦略的互恵関係強化、ロシアと北方領土交渉推進など並んだ公約は、他の刺激的な政策項目と比べ安全運転振りが目立っている。課題だけ掲げるのは簡単だが、どう実現するかが重要で実行力が疑問視される。

維新八策に記述はないが、維新の会は、政府が違憲と解釈する集団的自衛権の行使を容認する立場だとの見方が有力だ。

橋下氏は、戦時中の従軍慰安婦問題について「軍に暴行、脅迫されて連れてこられた証拠はない。あるなら韓国にも出してもらいたい」と強調し、旧日本軍の強制性を認めた93年の河野洋平官房長官談話を「最大の元凶だ」と批判した。韓国側から反発を受けた。「日韓紛争の根底に慰安婦問題がある。うやむやにするからいつまでも両国関係が成熟しない。曖昧にせず決着させるべきだ」。

近く発足する新党の代表として、橋下氏の外交問題をめぐる発言機会は増えそうだ(参考文献:信濃毎日新聞)。

(4)社会保障(9/7) ***

維新八策の社会保障制度分野のタイトルは「真の弱者支援に徹し持続可能な制度へ」である。少子高齢化による現役世代の負担増に配慮し、世代間の不公平感解消を図るのが狙いだ。

年金の「積み立て方式」を切り札とするが、数値目標や期限、財源の記載がなく具体策は不明だ。橋下氏は市長就任前から、現行の年金制度を抜本的に見直し、積み立て方式にすることが不可欠だと強調した。

現行制度は、現役世代の保険料を高齢世代の給付に充てる「賦課方式」だ。自分が払った保険料を老後に受け取る「積み立て方式」で自己責任型の制度にすれば、少子化に伴う負担増は避けられるとの見立てだ。ただ、厚生労働省幹部は「移行期間は自分の積み立てに加え、その時点での受給者の給付のためにも二重に保険料を払わなければならない。課題が多すぎる」と疑問視する。

維新の会は年金の積み立て不足を解消するため、国鉄清算事業団を念頭に鈴木学習院大学教授が提唱している「年金清算事業団方式」の導入を明記した。しかし、旧国鉄債務は30兆円、年金は700兆円であり無謀との指摘もあり、専門家の間でも見解は分かれる。

そして、年金や生活保護、失業対策など複雑な社会保障制度を一本化する「最低生活保障制度」を創設し、簡素な行政組織に再編することも維新八策が目指す大きな方針の一つだ。最低賃金が生活保護の支給を下回る逆転現象も是正出来るとしている。具体的には、これまで橋下氏が、最低限必要な生活資金を全国民に無条件で支給する「Basic Income(BI)制度」の理念導入を積極的に提唱している。日本総合研究所の西沢主任研究員は「現行制度への問題提起になっている」と評価する。一方で、数値目標がないことに関し「真の弱者は年収いくらまでの人か。どの政策も数値を入れた時点で議論が起きる」と指摘し、公約の提示の仕方としては説明不足だとの見方を示した。

(5)憲法(9/8) ***

橋下大阪市長率いる大阪維新の会の次期衆院選公約「維新八策」は、憲法改正を正面から打ち出した。選挙で維新の会が躍進すれば、衆院で改憲派が多数を占めることも予想される。平和憲法が切り崩される可能性も出てきた。

維新八策が焦点に据えるのは、改憲発議の要件を定めた96条だ。改憲を提案するための衆参両院議員の賛成を3分の2以上から過半数へと、ハードルを下げるとした。その後、国民投票で過半数が賛成すると改憲が実現する。

橋下氏をよく知る関係者は「愛読書は(自主憲法制定論者の)石原都知事の著作だ。ジャーナリストの桜井よしこさんも、尊敬している」と明かす。

96条の要件緩和を目指す動きは、国会内でも盛んだ。昨年6月超党派の議員連盟が70人で発足した。9条など対立しやすいテーマは避け「中立的な立場」として、運動を96条に絞り改憲の流れをつくりつつある。議員連盟の発起人で「戦後レジームからの脱却」を掲げる阿倍氏は「橋下さんたちが発信すると国民に届く。そうしたパワーは大きな壁を突破する上で必要だ」と維新の会の発信力に期待する。維新の会、自民党に限らず、みんなの党も改憲が公約で、民主党保守派を糾合すれば、多数派形成が可能となる。

奥平東大名誉教授(憲法)は「96条の要件緩和は非政治的に見えて、最も政治的な動きだ。9条を変えたいのが本音だろう」と指摘する。


[アメリカ経済]

(1)評価割れるオバマ大統領(9/4) ***

オバマ大統領は、09年1月の就任後、前政権の負の遺産と呼ばれた経済危機の克服や、歴代民主党政権の悲願である医療保険改革に傾注した。しかし、その評価は米国では二分し、大統領選の接線の背景になっている。

リーマンショック後の金融危機を乗り越えるため、就任後、約8千億ドルの大型景気対策や、経営危機に陥ったゼネラル・モーターズ(GM)など自動車大手の救済に乗り出した。GMはその後業績が回復し、10%を超えた失業率も現在8.3%まで低下し、大統領はこれらの実績を誇示している。しかし、今年に入り雇用回復の鈍化は鮮明になっている。金融機関や市場の監視を強める金融規制改革も、共和党の批判を浴びた。

公約の医療保険改革では、大統領は共和党に譲歩を重ねながらも、10年3月に事実上の国民皆保険となる法案を成立させた。しかし、自由の侵害と激烈に反対する保守派が、結束を強める結果を招いた。

外交ではイラクからの米軍撤退を昨年12月に完了し、アフガニスタンからの撤退にも道筋をつけた。一方、北朝鮮やイランの核問題では、大きな進展は見られなかった。11年にはロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)が発効したが、「核なき世界」実現に向けた思い切った施策はまだ見られない(参考文献:信濃毎日新聞)。