[金融情勢]

(1)加熱する金融緩和論争(11/21) ***

日銀の白川総裁が、大胆な金融緩和を次々と迫る安倍総裁に「ゼロ回答」で応じた。建設国債の日銀引き受けなど安倍氏が主張する政策を全面的に批判し、野田政権も反撃に転じた。次期首相と目される安倍氏の発言を背景に市場では円安・株高が進んだが、選挙伝への効果はまだ見通せない。

白川総裁は「日銀の独立性を尊重していただきたい」と、金融政策が総選挙の争点になっていることに不快感を示した。また、中央銀行の役割を「長い目で経済の安定を考え警告を発している」として、安易な金融緩和を戒めた。

一方、野田首相は「国際社会で共有している知恵は、中央銀行の独立性だ。日銀の国債引き受けは経済政策として間違っている」と、安倍氏を厳しく批判した。

今も安倍氏のブレーンには、経済成長を重視する「上げ潮派」が多い。安倍氏周辺は、政権獲得後の経済・財政運営をにらみ、国際金融筋から意見を聴取し、「無制限の金融緩和」などのアイデアを得たという。自民党が発表する衆院選政権公約にも、日銀法改正を視野に大胆な金融緩和を行い、デフレや円高を脱却することが盛り込まれる。

一連の安倍発言を受け、東京外国為替市場の円相場はこの1週間で2円近くの円安が進んだ。日経平均株価も9100円台に乗せ、2か月ぶりの高値圏となっている。

しかし、安倍氏の発言で波紋を広げているのは、日銀による建設国債の引き受けだ。日銀が買い上げると国の借金を肩代わりすることになり、放漫財政になることから財政法が原則として禁じている。戦時中に軍費調達の目的で日銀が国債を引き受けていたが、財政支出に歯止めがかからなくなった苦い経験もある。

仮に総選挙後に安倍氏が首相の座に就いた場合、歴史の教訓を踏まえた中央銀行の独立性を揺さぶる政策を本当に実行できるか懐疑的な見方は少なくない。


[競争政策]

(1)日系各社出展、広州モーターショー(11/23) **

中国広東省で「広州モーターショー」が開幕、日系自動車メーカー各社が出展した。尖閣諸島問題の影響で大幅に落ち込んだ販売をテコ入れし、巻き返しと動き出す。ただ、本格的な回復にどのくらい時間がかかるか、先行きは不透明だ。

何といっても、世界最大の自動車市場である中国は無視できない市場だ。トヨタは、今回過去最大の展示面積を確保した。反日デモ以降、各社は派手な宣伝を控えてきたが、12月2日までの広州ショーをきっかけに反転攻勢に出る。

一方、中国政府は表向き強硬な対日姿勢を崩していないが、地方政府を中心に、経済発展のためには日系企業の投資を必要としているのが本音だ。

三菱自動車は反日デモ直後の9月下旬に、中国の広州汽車と合弁会社を設立した。工場を視察した地元政府幹部は「地域経済の発展に期待している。これまで通り支援する」と表明したという。マツダの工場がある江蘇省南京市の当局も「ビジネスを拡大してほしい」とさらなる投資に期待しているという。広州ショウの主催者も「日系メーカーの安全は保証するから必ず出展してほしい」と告げてきた。

ただ、販売回復への道のりは遠い。10月の日系メーカーの乗用車販売台数は、前年同月比6割近い落ち込みだ。11月も振るわず、お客が戻るまで長期戦になるとの見方が強い。

日系各社の苦境をチャンスと見たフォルクスワーゲンや現代自動車はシェア拡大に躍起だ。特に、広州を中心とする華南地域は、地元に工場がある日系メーカーの牙城だけに、フォルクスワーゲンが攻勢をかけることを宣言するなど、競争が激化している。

日系メーカーは「欧米、韓国メーカーに顧客を持って行かれた」と残念がる。日系販売手店の中には、歩合制の給料が減ったため、販売員が次々と辞めていく店も出ており、販売体制の足元が揺らいでいる。

日系各社は年明け以降、新型車の投入や中国向けブランドの強化といった戦略を推し進める構えだ。各社とも中国での生き残りに向けた正念場を迎えている。