[企業部門]

(1)ソフトの巨人もジョブズ流(6/24) ***

米マイクロソフトが、ソフト開発に専念する手法を改め、ハード(機器)も自ら手がけたタブレット(多機能携帯端末)を年内に売り出す。世界のIT需要をけん引する主役として、個人ユーザーが台頭する構造変化がソフトの巨人を後押しした。手本は、宿敵アップルの事業モデルだ。

マイクロソフトは1981年IBMが発売したパソコンにOSを供給して以来、多くのパソコンメーカーにOSを供給し、シェア9割超の地位を築いた。在庫リスクのないソフトに特化し、標準技術を握り高収益を享受してきた。しかし、パソコンメーカーへの供給をやめるわけではないが、メーカーと役割を分担してきた分業体制はスタートから32年目でついに崩れる。

背景には、日々ITを使い、製品やサービスへの要求を高めた個人ユーザーの存在がある。かつて最新ITは、まず企業ユーザーが導入し、その後安価な簡易版の技術が個人の手に届くという順序があったが、いまやイノベーションの最前線に立つのは個人だ。 検索のグーグル、動画共有のユーチーブ、交流サイトのフェイスブックなど、今世紀に入り新潮流を生み出すのは、どれも個人ユーザーの強い支持を得て普及が進む。端末も同じだ。個人ユーザーを引きつける魅力がないとヒットしない。企業ユーザーへの販売で威力を発揮した低価格、多機能では足りず、スムーズな操作感や斬新なデザインが求められる。こうした背景の下で、最も成功したのがS.ジョブズ氏のアップルだった。 

アップルの強みは、ハードとソフト、さらにはコンテンツ配信などサービスまで一体的に開発し、全体の完成度を高める手法だ。「分業」とは対極的な「統合」の事業モデルだ。ジョブズ氏は個人ユーザーと接し、ブランド力を高めるのに直営店が欠かせないと判断し、世界に約360店を構える。6万人を超す従業員のうち6割を小売部門に割く(11年9月)。一方で、工場は持たない。ジョブズ氏にとり最後の大型製品となったタブレット「iPad」はシェアが6割に及ぶ。マイクロソフトの収益源であるパソコン市場を侵食しながら販売を伸ばす状況に、マイクロソフトの危機感は一気に高まった。

「ソフトだけでなくハードまで踏み込んで革新的な製品を開発しなければ、アップルに追いつけない」と、マイクロソフト関係者は打ち明ける。

このようなハード参入に動くのは、マイクロソフトだけではない。ネット通販のアマゾン・ドット・コムは電子書籍端末キンドルを自社で製品化、グーグルは通信機器大手を買収した。フェイスブックがスマートフォンを開発中との観測もある。

マイクロソフトのウィンドウズ事業は、売上高営業利益率が11年6月期で65%と高く、産業史に残る成功物語なのは間違いない。自社タブレット投入にはパソコンメーカーと競合し、取引関係にひびが入る恐れもある。それでも方向転換せざるを得ないほど、激しい変化がいまITの世界で起きている。

[2012年のタブレット端末のOS会社別シェア]
アップル 61.4%
グーグル 31.9% 
マイクロソフト 4.1%

(参考文献:日本経済新聞)