[雇用情勢]
(1)非正規雇用問題(3/27) ***
勤め人の3人に1人は、非正規社員だ。90年代に日本企業は円高に直面し、派遣社員などが増え始めていた。グローバル化が押し寄せていたからだ。大竹阪大教授は「日本の労働市場では90年代に高学歴人材の希少性が薄れた」と指摘する。アジアで高学歴人材が急増した90年代に入ると、日本の大卒社員の優位性が薄れだした。
賃金への影響は、中高年よりも若者に強く表れた。経営者にとり、既存社員の賃金引下げは難事だったからだ。
日経連の成瀬常務理事も「世帯主まで非正規に追い込まれる事態は想定しなかった」と振り返る。労組も非正規問題への取り組みに二の足を踏んだ。連合も正社員中心の組合活動で、非正規を仲間に取り込んでこなかった反省がある。正社員の既得権を守ろうとする点で、労使の利害は同じ方向であった。06年になると政府内から労労対立を解きほぐそうという声が上がる。経済財政諮問会議は、グローバル化に耐えうる雇用改革を唱えた。議論を主導した八代国際基督大教授は、「正規と非正規の間に身分格差のような問題がある」と指摘し、年功よりも職種や能力重視の仕組みを求めた。
連合が労労問題の克服に本格的に動き出したのは、09年の古賀会長が就任してからだ。10年の春闘方針に「すべての労働者の処遇改善」を明記し、翌11年の春闘では「時給で正社員を上回る賃金引き上げと福利厚生の充実を」と踏み込んだ。
経済界は、大学などと連携して学卒者を通年採用する仕組みに動き出した。また、既に社会に出た人への目配りも怠れない。
解決策は雇用政策だけにとどまらない。産業界の税負担を軽くして、新規参入を阻む規制を改革する。このような成長戦略の実行が、日本経済の次の10年に活力を取り戻す鍵となる。