[アメリカ経済]
(1)米消費上向き、持続力課題(11年1月29日) ***
米景気の鍵を握る個人消費が上向いてきた。株価上昇や減税が主な要因である。年末商戦が好調だったため、10年10〜12月期の実質GDPの3.2%増に家計消費が寄与した。ただ、雇用や所得をめぐっては改善に遅れが見られ、持続力になお課題が残る。
GDPの約7割を占める消費のうち、好調な分野は自動車など耐久財から、非耐久財・サービスなどにも幅広く波及し始めた。昨年の年末商戦は過去最高額に達した。実際、消費者心理は上向きつつある。米消費者信頼感指数(85年=100)は、1月に60.6と金融危機前の08年春のころの水準を回復した。
大きなけん引役は、株価の上昇だ。ダウ工業株30種平均は、昨年8月下旬から約20%上がった。資産効果が膨らみ、富裕層の懐具合を和らげている。中低所得者にとっても、安心材料が整っている。昨年12月に、減税延長が決まり、心理的な余裕が生じているとみられる。年末商戦の好調は、家計をめぐる危機が当面は遠のいたとの意識が、幅広い所得層に浸透したことがありそうだ。
ただ、不安材料も依然残る。失業率は9%台の高水準にあり、長期失業者が増えている。家計所得も伸び悩んでおり、持続的な消費の拡大は期待しづらい。
[ロシア経済]
(1)ソ連崩壊20年目の現実(1月23日) ***
ソ連が崩壊し20年がたち、独立した旧共和国は独自の道を歩んだが、ここにきてロシアを中心に再び結束する動きが出ている。
ウクライナはユーシェンコ前政権時代、反ロの急先鋒だった。しかし、昨年2月、親ロ派のヤヌコビッチ大統領が就任して以来、ロシアとの関係は大きく改善した。現政権はNATO加盟の目標をいち早く撤回し、両国の原子力発電所の建設協力や軍産複合体の連携強化などの話も進んでいる。
キルギスでは、昨年12月にアタムバエフ新首相による連立政権が発足し、新首相は「最大の戦略的パートナーはロシア」として、真っ先にロシアを訪問した。国内は貧困に加え、度々の政権転覆や民族衝突による混乱で、国家破綻の瀬戸際にある。ロシアにおもねるのも、ロシアの支援抜きには国家が成り立たないという危機感が背景にある。
さらに、ロシア、カザフスタン、ベラルーシが昨年末、12年に統一経済圏を創設することで合意した。域内の資金や労働力の移動を自由化するという。昨年7月に域内の関税をなくす関税同盟を始動しており、経済統合への流れを進める。
08年のロシアのグルジア侵攻は、独立国家共同体(CIS)の分裂を決定的にしたといわれた。なぜ環境が一変したのか。最大の要因はやはり、旧ソ連地域での米国の存在感の低下だろう。オバマ政権は、ロシアとの関係改善を優先し、ロシアが裏庭とするCIS諸国への干渉をやめたことが背景にある。
米欧諸国が、人権や民主主義の観点からCIS諸国との関係強化に二の足を踏む中、ロシアが漁夫の利を得ている面もある。カザフでは、ナザルバエフ大統領を事実上の終身大統領にする動きが続く。ベラルーシでは欧州圏で「最後の独裁者」とされるルカシェンコ大統領が4選を果たしたばかりだ。
CIS諸国は、地政学的に重要な地域だ。ウクライナは欧州とロシアの要衝に位置する。キルギスは、米軍がアフガンの対テロ戦で重要な補給路となっている。中央アジアを中心に、豊富な資源を抱える国も少なくない。こうした地域でロシアが一方的に権益や資源などを囲い込むようだと、新たな紛争や対立の火種になる懸念も強まる。