[景気動向]

(1)過去2回の踊り場局面、現在と類似(9/27) ***

戦後最長を記録した前回の景気回復局面(2002年2月〜07年10月)でも、2度の踊り場があった。世界経済の変調で輸出が鈍り、生産や個人消費も伸び悩んだのが共通点だ。今の日本経済と似ている。

1回目の踊り場は02年後半から03年前半であった。中国でのSARSの流行やイラク情勢の緊迫化が原因だ。2回目は、04年後半から05年前半だ。アテネ五輪の特需を過大に見積もり、IT製品の世界需給が緩んだのが引き金となった。ただ、設備投資が好調で、輸出も一時的な調整にとどまったため、景気の回復が途切れずにすんだ。

政府は、08年3月にも踊り場的な状態にあるとの判断を示した。米国のサブプライムローンの問題が、日本経済にも打撃を与えていたためだ。このときは、輸出の落ち込みに歯止めがかからず、景気後退となった。

(2)9月日銀短観、大企業製造業、景況感6期連続改善(9/29) ***

9月の日銀短観は、業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス8と、6月の前回調査から7ポイント改善した。改善は6期連続だ。ただ、改善幅は前回の15ポイントから縮小したほか、3ヵ月後の先行き見通しもマイナス1と、7期ぶりに悪化した。円高や政策効果の息切れなどによる景気の減速も予想され、企業は先行きの不安を実感している。 

大企業非製造業のDIも、前回のマイナス5からプラス2へと6期連続で改善した。中小企業の製造業、非製造業も5期連続で改善し、緩やかながら景況感が改善していることが確認された。

ただ、先行きへの見方は厳しい。補助金の終了となる自動車は、足元のプラス32からマイナス6へと、調査開始以来最も大きな落ち込みだ(38ポイント)。電気機械などの輸出産業を中心に、幅広い業種に不安感が広がっている。円高が、今後の収益悪化要因になりかねない。

先行きへの不安は、企業の設備投資計画にも影響を及ぼしている。大企業製造業による10年の設備投資額は、前年度比4.0%増だ。これは市場予想より弱めとなった。    

デフレにも歯止めがかかっていない。大企業製造業の販売価格判断指数(上昇から下落を引いた値)は、マイナス15と前回より1ポイント低下し、3期ぶりに悪化した。需要不足を背景にした価格競争の厳しさは、依然として和らいでいない。

[業況判断指数(DI)の動き]
今回 先行き
大企業  製造業 −1
非製造業
中止企業 製造業 −14 −22
非製造業 −21 −29

(3)「日本病」となったデフレ(9/27) ***

日銀が前代未聞の金融の量的緩和に動いたのは2001年3月だ。それから9年余り、米連邦準備理事会(FRB)が後を追う用意を見せる。08年9月のリーマンショックから2年、米国もデフレに身構えている。

大型金融破綻が相次いだ97〜98年、日本は景気悪化と物価下落が同時に進むデフレスパイラルの寸前となった。99年2月、翌日物金利をゼロ%にするゼロ金利政策に踏み切った。速水総裁は「デフレ懸念の払拭が展望できるまで」ゼロ金利を継続すると述べた。だが、米国のIT景気が日本に波及し始めた00年8月、消費者物価はまだ前年比でマイナスだったが、速見総裁主導で日銀はゼロ金利を解除した。ITバブルの崩壊もあり、判断の誤りはすぐに露呈する。もはやゼロ金利に戻すだけでは足りず、01年3月に導入したのが金融の量的緩和だった。政府もデフレを認めなかった方針を転換し、「緩やかなデフレにある」と宣言する。

03年3月に就任した福井氏は、大胆な量的緩和に舵を切る。日銀当座預金残高は、総裁就任時の15〜20兆円から、1年足らずで30〜35兆円へと大幅に膨らんだ。

当時、円高を抑えてデフレから脱するため、日米合意の円売り介入が行われた。円売り介入額は、03〜04年にかけ35兆円という空前の規模に上る。日銀が介入で市場へ放出した円資金を吸収しないことで効果を高める「非不胎化」介入だ。

そして、景気の足取りは、次第に確かになった。日銀は06年に量的緩和を解除し、ゼロ金利からも離脱した。だが、持続的成長の下でもデフレ病は完治しなかった。

第2次大戦後の世界は、経済の成長と共に、物価が上昇するのが常態だった。だが、バブル崩壊後の日本では、株安が大量に株を抱える銀行を直撃し、地価下落が不動産を担保にする中小企業の金融を詰まらせ、貸し渋りと不良債権問題を生んだ。その後、デフレが到来し、企業は投資を抑え、現金を抱え込むようになった。国内需要が低迷する中、新興国が台頭し同じモノをより安い価格で供給し、生産や投資の海外移転に拍車がかかった。

デフレは経済と政策運営の複合的な病だけに、いったんかかると完治は難しい。いま、米国も同じ病に直面しようとしている。


[ユーロ経済]

(1)政治同盟に深化不可欠(9/28) ***

ユーロ圏経済は、きわめて密接に結びついている。スペインやポルトガルの国債は、独仏の銀行に保有されている。南欧の問題は、北欧にも波及する。問題を抱えた国を他の加盟国が財政支援するユーロ圏共通の手法でしか解決できない。

ユーロ圏で、欧州中央銀行(ECB)が一元的に金融政策を担っているのに、税制や賃金政策など他の経済政策は、すべて加盟国が個別に担っている。これでは、何度も危機が起きる。再発防止には、加盟国の経済政策を調整し、共同で決定できる政治同盟で初めて可能になる。EU固有の税制の権限はほとんどなく、EU機関は中身のない貝のようなものだ。

EUに経済政策の決定権限を集中した欧州連邦制の支持者は、現状では皆無だ。欧州人は統合が行き過ぎと考え、統合を加熱に支持したオランダ人でさえ「もう十分」と言っている。これは、ジレンマだ。欧州統合を強力に推進する政治指導者は少ない。

ユーロ圏の将来は楽観的にはなれない。だが、危機が起きれば、変化への意欲が生まれ、危機が一歩一歩前進させる。