[企業部門]

(1) 携帯新放送、ドコモに決定(9/9) **

12年に春に始まる携帯端末向け新放送の放送設備を運営するインフラ事業者に、8日、NTTドコモグループの「マルチメディア放送」が決まった。電波監理審議会(総務相の諮問機関)が、KDDIグループの「メディアフロージャパン企画」と比較審査した結果、利用料金など事業計画の面でドコモ側が優位と判断した。映画などの動画を高画質で閲覧し、いったん端末に保存して電波の届かない場所でも見られるサービスが具体化に向け動き出す。

総務省は今後、実際に放送番組を作る事業者の選定に移る。コンテンツを持つ放送会社などが名乗りを上げる見通しだ。

新放送は、首都圏では東京スカイツリーなどから放送する。携帯、スマートフォン、電子書籍端末などで視聴できる。特徴は、現行の携帯端末向け地上デジタル放送「ワンセグ」より画質が約9倍向上した動画が見られる点だ。周波数の幅をさまざまに分離できるため、大手だけでなくベンチャー企業などの多様なコンテンツをそろえやすくなる。

端末への番組保存も可能だ。地下鉄など電波の入らない場所でも視聴できるようになる。ドコモでは「月額基本料を300円程度とし、無料と有料コンテンツを用意する仕組み」を想定している。

ドコモが出資するマルチメディア放送を2分割し、放送設備を整備・運営するインフラ会社を設ける。この設備を、コンテンツを作る放送事業者が借りる仕組みだ。分割2社のうちもう1社を放送会社としてコンテンツ配信も計画している。同時に、放送、映画、出版など各業界にコンテンツ事業者として参加を呼びかける。


[金融市場]

(1)ペイオフ初の発動、振興銀行きょう破綻申請(9/10) ***

日本振興銀行は、自力再建を断念し、10年9月中間決算で1500億円規模の債務超過に陥る恐れがあると、金融庁に申請する方針を固めた。これを受け、同庁は経営破たんと認定し、預金を一定額までしか保護しないペイオフを初めて発動する。預金者に「元本1千万円とその利息」まで預金の払い戻しに応じる一方、これを超える部分は支払額が一部カットされる見通しだ。振興銀は、東京地裁に民事再生法の適用を申請する。

金融庁が同行を救済せず、ペイオフに踏み切るのは、預金者や金融システムへの影響が限定的とみているためだ。ペイオフ発動は、1971年に預金保険制度が発足して以来初めてである。   90年代の金融危機の際、政府はペイオフを凍結し、預金を全額保護した。02年に定期預金についてペイオフ凍結を解除したが、足利銀行が03年に破綻した際には、金融ステムへの影響を懸念して公的資金を投入し国有化した。預金も全額保護した。

振興銀の預金者約11万人のうち、1000万円を超える預金者は400人程度で、大半の預金者の預金はすべて保護される。預金6000億円のうち、一部払い戻しがされない預金は100億円程度という。

90年代後半からの日本の金融システム不安が収束したことも、ペイオフ実施の背景にある。

金融整理管財人になる預金保険機構の下で、振興銀は預金の払い戻しや契約済みの融資実行など最低限の業務は続ける。その上で、受け皿銀行を探すか、見つかるまで業務を引き継ぐブリッジバンク(承継銀行)を活用するなどの破たん処理を進めていくとみられる。

(2)銀行新規制、「自己資本」7%以上(9/8) ***

主要国の銀行監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は、国際的に活動する銀行に対する新しい自己資本規制の柱となる「狭義の中核的自己資本(普通株・内部留保)比率」を実質7%以上とする方向で最終調整に入った。金融危機の再発防止などに向け、自己資本の充実を求める。新規制を求めるのは、18年になる模様だ。猶予期間を求めることで、貸し渋りなどの副作用が生じることを防ぎたい考えだ。

08年秋の世界的な金融危機を踏まえた措置となる。自己資本の量と質を両面で強化する。金融市場が急激に変化しても、金融機関の経営が悪化して実体経済に悪影響を及ぼすリスクを抑えるのが狙いだ。

新規制で注目されるのが、狭義の中核的自己資本の水準だ。これは、資本としての質が高い普通株と内部留保で構成する。国際業務を展開する銀行には、貸出リスク試算に対して狭義の中核的自己資本の比率を、最低でも5%以上維持するよう求める方向で調整している。日本の銀行はこの水準を割り込むと、金融庁から早期是正措置などの行政処分を受けることになる。

さらに、財務の健全性を高める目的で、この最低基準への上乗せ措置を設ける。上乗せ基準は2%以上になる見通しだ。あくまで補完的措置だが、達成できないと銀行は配当や報酬などに一定の制限をかけられることになる。結果的に、銀行が狭義の中核的自己資本として求められる比率は、7%以上になると見られる。

国内の3メガバンクは、08年末以降それぞれ1兆円超の普通株増資を実施してきた。ある試算によると、13年3月期の中核的自己資本比率は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が8.6%、三井住友FGが7.9%、みずほFGが6.1%となる。

新規制の適用は18年をメドとする見通しだが、基準を達成するには今後着実に利益を上げて資本を積み増していく必要がある。


[経済成長]

(1)豊かなアジア、埋もれる日本(9/6) ***

一人当たりGDP(購買力平価ベース:購買力が等しくなるような通貨の交換比率で計算)で、アジアの新興地域が日本を急速に追い上げている。台湾は10年に一人当たりGDPが約3万3800ドルと、日本を上回る見込みだ。韓国も10年間で約1.8倍に増え、日本の水準に迫る。円高により名目ベースの一人当たりGDPはまだ日本が上だが、生産性の高い製造業が立地するアジアの生活水準は大幅に向上している。

購買力平価で表す一人当たりGDPは、各国・地域の実質的な豊かさや生活水準を示す。国際通貨基金の推計では、日本は10年前に比べ1.3倍となったが、アジアの新興地域はこれを上回るペースで伸びている。

台湾の一人当たりGDPは07年に3万ドルを超え、今年初めて日本を上回る見込みだ。半導体など電子デバイス関連で生産性の高い拠点を多く構えるためで、10年間で約1.7倍となった。韓国も日本を猛追する。現在のペースで伸びれば、18年ごろには韓国の一人当たりGDPは日本を上回る。日本は90年代前半にシンガポールに、00年代に入り香港にも抜かれており、アジア各国・地域が豊かさで次々と日本に追いついてきた格好だ。

ただ、名目ドルベースの一人当たりGDPでは、日本がなお優位に立つ。日本は約4万1,400ドルに対し、韓国は半分の約2万300ドル、台湾は約1万7,900ドルに過ぎない。中国は日本の1割に満たない水準だ。

また、豊かさに加え、教育水準や平均寿命なども加味した国連人間開発指標では、日本は世界で第10位に位置している。23位のシンガポールや24位の香港、26位の韓国より高い。

[一人当たりGDP(購買力平価基準)](単位ドル)
カタール 90,149
ルクセンブルグ 79,411
ノルウェー 52,964
シンガポール 52,840
ブルネイ 48,714
米国 47,702
香港 44,840
24 台湾 33,831
25 日本 33,478
28 韓国 29,351
96 中国 7,240


[FTA]

(1)日印EPA大筋合意(9/10) ***

日本が、インドとの経済連携協定(EPA)の締結で大筋合意した。日本の主要輸出品目の関税も撤廃されるため、自動車・鉄鋼業界は輸出の拡大に期待している。1月に、韓国もインドと自由貿易協定(FTA)を結んでいるため、ライバルと同じ競争条件を維持できるとの声も出ている。ただ、インドが要求した後発医薬品の迅速な認可や、インド人の就労機会の拡大には課題を残した。

インドの乗用車は100万円以下が売れ筋で、価格競争が激しい。日本メーカーはインド製部品の調達でコストを引き下げているが、現地調達が難しい制御部品や精密加工部品などは日本から輸入している。このため、関税引き下げのメリットは大きい。

後発医薬品の認可手続きの迅速化では、日本側が歩み寄ったようだ。しかし、日本でのインド人の就労機会拡大については、今後も議論を継続するだけで終わった。東南アジア諸国連合ともFTAを締結しているインドにとっては、不満が残る内容となった。

さて、日本は、EPA戦略で韓国に遅れをとっている。日本がEPAを結んだ国・地域との貿易額が全体に占める割合は、16.5%だ。交渉中の案件を含めても、36.5%にとどまる。韓国は、米国や欧州などとのFTAに署名しており、交渉中の分を含めると6割を超える。

日本がEPAで出遅れているのは、農業分野での市場開放に踏み切れていないためだ。今回の合意でも、コメなどの主要農産品を関税撤廃の対象から除外した。最近は、製品の安全基準の共通化など、非関税障壁分野での自由化を求められるケースも目立つ。この分野でも、民主党政権が利害関係者を説得できるかどうかが問われる。