[国内企業部門]

(1)遅れた産業再編―危機なければ企業動かず(10/24) ***

バブル崩壊、日産ゴーン・ショック、金融と産業の一体改革、そして、リーマンショック・・・。激動の20年を経てもなお、日本は高炉5社、電機10社、自動車11社を温存してきた。人口減、資源高、新興国台頭を受け、企業には規模の拡大を通じたバーゲニング・パワーの強化が必要なはずだった。

99年3月、2兆5000億円の有利子負債を抱えた日産自動車とルノーの資本提携を発表する記者会見場には、「日産とルノー、力強い成長のために」という言葉が掲げられた。ルノーから再建のために送られたゴ−ン社長は、5工場閉鎖、系列見直しなど欧米流の手法で業績をV字回復させた。その仕事振りには豪腕、冷血などの批判も浴びせられた。だが、一方で「変わろうとしない日本をたたき直してほしい」とエールを送る声も少なくなかった。大手金融機関の破綻や年功序列賃金の崩壊に陥っても、行動しない政府や経営者への不満がうっ積していた。ゴ−ン改革は関連業種への再編も促した。02年には、鉄鋼2位と3位のNKKと川崎製鉄が経営統合を決断する。日産系の部品メーカーも統合や他社系列への組み換えが一気に進んだ。

ただ、日本全体で見ると、多くの業種でプレイヤーの過剰が解消されることはなかった。00年代半ばには市場統合が軌道に乗る欧州、株高に沸く米国の景気が拡大し、日本企業の業績も回復し、再編に先送りムードが漂った。

05年1月、経営危機に陥った三菱自動車は、法的措置か救済かを迫られ、三菱グループ企業の支援額4800億円を受けた。国内市場の縮小や新興国企業の台頭で状況は激変したが、自動車メーカーの数はずっと変わっていない。

日本の企業社会では、内発的な業界再編は難しいといわれる。金融危機や敵対的買収など外圧がないと動かない。問題は、変化を嫌う組織である。

鉄鋼、家電、工作機械など、日本の牙城だった分野で国内企業がシェアを落とす。日本という市場が縮む中で、再編なしで共存できた時代はもう遠い昔だ。小粒な老舗が存続する現状では、デフレも根治できない。


[国内金融情勢]

(1)試されるデフレファイター(10/25) ***

通貨安競争と金融緩和競争の中で、日本銀行がようやく本格的な金融緩和に乗り出した。しかし、これで日本が「長きデフレ」から脱却できる保証はない。

政府の成長戦略と合わせ、日銀は金融緩和を浸透させる使命を担う。米欧先進国はデフレに陥る日本化を恐れだしている。日銀に求められるのは「デフレファイター」への変身である。

量的緩和でも信用緩和でもない「包括緩和」と銘打った金融政策は、確かに市場の予想を上回るものであった。ゼロ金利に戻すとともに、物価上昇が見込めるまでにそれを継続する。さらには、国債、社債だけでなく上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)といったリスクある資産も購入するための5兆円基金を設けることにした。

リスク資産は損失が生じれば、日銀納付金は減り財政負担につながる。

大事なのは、日本人の間にまん延したデフレ心理を払拭することである。伊藤隆敏東大教授は、「金融緩和は10年遅すぎた」と厳しい。「少なくとも米欧の中央銀行がバランスシートを膨らませたリーマンショック後の半年間で実施すべきだった」という。円高圧力がかかったのは、金融緩和競争に出遅れた面も大きい。

日本経済研究センターの岩田理事長は、日本が「デフレ均衡」に陥った要因としてバブル崩壊によるバランスシート調整、生産年齢人口の減少による潜在成長率の低下とともに、円高の進行を挙げる。

デフレ脱却の大前提は、円高の防止である。韓国での20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、通貨安競争を回避することで合意したが、現況の下で各国が輸出に活路を開こうとしている現実には変わりはない。米国の金融緩和が長期化するのは必至で、ドル安圧力は続くだろう。

デフレ脱却のカギを握るのは、政府の成長戦略と日銀の金融緩和の大結合だ。法人税率の引き下げ、FTAの広範な締結、需要創造型の規制改革は成長戦略の優先課題だ。政府と日銀は名目成長率を高めるための目標と戦略を共有するときである。

いつの時代も中央銀行は、「物価の番人」である。インフレ時には、中央銀行は「インフレファイター」でなければならないが、デフレの時代には「デフレファイター」であってしかるべきだ。包括金融緩和を機に、日銀の君子豹変に期待したい。


[中国経済]

(1)新5カ年計画、内需主導の成長重視(10/28) **

中国が、高成長から成長の質を重視する経済路線に転換し始めた。共産党が公表した「第12次5カ年計画(2011〜2015年)」の草案によると、GDP伸び率など具体的な数値目標が消え、環境重視や貧富・地域間格差是正など、バランスが取れた成長を目指す姿勢を鮮明にした。消費底上げなど内需拡大や貿易黒字削減も強調した。国内の社会不安や国際世論を意識した内容となっている。

中国が経済の質重視を鮮明にしたのは、高成長だけを追い続けると、さまざまな面でバランスを崩し、いずれ経済が生き詰まるとの危機感が強まったためだ。経済成長を持続可能にして、いびつな経済の構造改革を進める必要があると判断した。

その柱の一つが「人と自然の調和が取れた発展」だ。環境税の徴収の開始や、エネルギー効率の大幅改善などを明記した。「都市と農村、地域間、経済と社会のバランスの取れた発展」も柱の一つで、富の再配分を強化する姿勢を示した。

消費拡大も持続可能な成長には不可欠だ。1〜9月期の輸出額は1兆1346億ドルで、GDPの3割弱に相当する。輸出依存度を減らし、内需を拡大させることで、国内市場を育成する。そのために、サービス産業や運輸部門の強化策を示した。そして、投資依存が高い構造を改革するうえでも、国内市場の育成は欠かせない。1〜9月期の固定資産投資はGDPの7割もある。

5年前のGDPに比べ、今年が2倍になる見込みだ。だが、家計所得はそれに見合うほど上がっていない。貧富の差を示すジニ係数は、中国は0.4台後半に拡大している。社会が不安定になる警戒ラインの0.4を超え、危険ラインの0.5に近づいている。政府が社会の安定最重視を掲げる中、格差問題が緊急課題になっている。