[財政]

(1)新興国のバブル・先進国デフレ同時進行(10/16) ***

[先進国]

先進国の中央銀行がデフレ圧力に対し、購入資産の拡大を通じ大量の資金を供給している。先進国の金融緩和競争が生んだ余剰資金は新興国に流れ込み、資産バブルやインフレの温床になりつつある。世界経済は、先進国のデフレと新興国のバブルが共存する難しい局面に入った。

4〜6月期の名目GDPに対する9月末の資産残高の比率をみると、日銀は25.8%、欧州中央銀行(ECB)の21.4%、英イングランド銀行(BOE)の17.0%、米連邦準備理事会(FRB)の16.1%が続く。この比率は、資金供給量の大きさと比例する。現在の比率は90年代の3〜10%を大きく上回っており、日米欧の中銀が異例の緩和を実施していることが分かる。日銀は01〜06年に量的緩和を採用した経緯もあって、比率が高止まりしている。リーマンショック後に、深刻な危機に見舞われた米欧の伸びが目立つ。FRBの比率は、6%から16%台に高まり、BOEやECBも上昇した。なお、大幅な需要不足を抱えているためで、資金供給量の拡大を通じ景気を下支えしたい考えだ。

日米欧の中銀は資金供給量の拡大と同時に、国債などの伝統的資産以外にも買い取り対象を広げている。FRBは住宅ローン担保証券を大量に購入し、ECBはギリシャ危機に対応し信用力の落ちた国債の買い取りに動いた。日銀は、上場投資信託や不動産投資信託の購入を検討する。購入資産の多様化は、積極的に資金を供給するというメッセージを与え、市場に安心感を伝える。ただ、通貨安という副次的な効果を生み出すという見方もある。資産の拡大に積極的なFRBの動向をにらみ、ドルの独歩安が進んでいる。

[新興国]

先進国の金融緩和で市場に大量の資金が供給されると、余剰マネーは高金利・高成長の新興国に流れ、株式市場や不動産市場の加熱につながっていく。しかも、新興国は為替介入で自国通貨の上昇を食い止めてきた。これが金融緩和に近い効果を発揮し、バブルに拍車をかけかねない。

米国は、中国・人民元の上昇などを求める。ただ、新興国は、ドル安は先進国の金融緩和が原因との不満がくすぶる。ブラジルやタイなど、短期資金の流出入を抑える規制強化に動く国もある。

アジア、アフリカ、中南米の主な新興国・途上国(G24)は、先進国の金融緩和が新興国への資本流入を招き、自国通貨を押し上げているとの声明を発表した。


[中国経済]

(1)異質な市場経済、どう対峙(10/16) ***

異質な隣国―。尖閣諸島沖の漁船衝突事件が示したのは、日米欧とは違うルールで動く中国の姿だ。訪日ツアーは突然キャンセルし、希土類の輸出は中止した。事実上の対日制裁に中国政府の回答は、「そんな指示はしていない」であった。日本は最後まで出方を読みきれなかった。

船長の釈放で日中の緊張が緩みかけた途端、次の激震が欧州に走った。中国人権活動家劉暁波氏へのノーベル平和賞受賞に対して、中国外務省はノルウェー政府に激しく抗議した。平和賞を決めるノーベル賞委員会はノルウェーにあるが、政府とは独立であるが、それでも中国は圧力をかける。06年には、日本政府を「もっとマスコミを指導すべきだ」と批判した。民は官に従うはずだという独自の論理で譲歩を迫る。

共産党の一党独裁を続けながら、市場経済を進める中国の発展モデルは「北京コンセンサス」と呼ばれる。日中摩擦で見せた力の外交を可能にしたのは、急成長しGDPで間もなく世界第二位になる経済力だ。

土地は国のものだから、都市再開発やインフラ整備はほぼ思いのままだ。上海万博では一万八千戸が立ち退きの対象になった。一部に不満は出たが工事に影響はなかった。

ミャンマーなど非民主的な国家には、親中派が少なくない。一部の途上国にとり、中国は、経済発展に民主化は必ずしも必要はないという手本に映る。

冷戦終結と旧ソ連の崩壊は、資本主義+民主主義の優位性を証明したはずだった。それから20年、各国は北京コンセンサスへの対処を迫られている。中国モデルは本当に経済をよりうまく運営できるのだろうか。成長が鈍れば、人権が守られず、非民主的な体制に不満が爆発し、社会が混乱するとの見方もある。