[国内景気動向]
(1)経済財政白書、需要不足が慢性化(7/23) ***
荒井経済財政担当相は、2010年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。日本では、過去20年程度慢性的な需要不足が続き、デフレからの脱却が困難になったと指摘している。バブル経済の負の遺産は払拭し切れていないとして、日本経済再生の必要性を訴えている。副題は「需要の創造による成長力の強化」だ。企業部門より家計部門の支援を重視する民主党の基本理念を色濃く反映している。
民主党政権の子供手当てや高校無償化などを通じ、10年度の可処分所得が前年より1.4兆円増えるとの試算も盛り込んだ。
国内景気については、民需中心の自律回復には至っていないとしながらも、昨春ごろから着実に持ち直しているとの判断を示した。ただ、欧州の信用不安や中国のバブル懸念などの世界経済の減速や、原油高などの下ぶれリスクが残ると分析し、注意が必要だと強調している。
政府は、昨年11月の月例経済報告で、01年3月から06年6月に続いて再び日本経済はデフレに陥ったと宣言した。今回は、00年代初頭より物価下落が急速で、09年の1年間で値下がり品目の割合が30%程度から60%台半ばに上昇したという。08年9月のリーマン・ショックが直接の原因としながらも、90年前後のバブル崩壊後の調整が長引き、需要不足状態が続いたことがデフレの根源にあるとの見解を表明した。09年の完全失業率は5.1%で、需要不足が2ポイント程度の押し上げ要因になったと試算した。
企業部門の活性化についても触れ、環境・エネルギー、医療、介護などの分野で新たな産業や雇用を創出すべきだと提言した。国際的に高い法人課税の実効税率(現行約40%)については「税率の引き下げが必ずしも税収を低下させない」と指摘し、間接的な表現で減税の可能性をにじませた。
[財政]
(1)一人当たりの医療費、国保は企業保険の最大1.7倍(7/22) **
自営業者や無職の人が加入する国民健康保険(国保)の一人当たり医療費が、大企業の健康保険組合に比べて高いことが、厚生労働省の実態調査でわかった。特に、40〜44歳では、国保加入者の一人当たり医療費は年間で16万6286円と、健保の医療費の10万125円を大きく上回り、健保の約1.7倍となった。健康診断の受診率の差が医療費に影響を与えているようだ。45〜49歳でも、国保は20万2942円と健保の約1.6倍となった。国保に加入する30〜60代までの年齢層で、医療費が高くなる傾向にある。
国保加入者は、無職者が5割超を占めている。平均年収は、健保加入者を大幅に下回り、体調が悪くても通院を控えたりして、結果的に医療費が膨らんでいる可能性がある。40〜74歳を対象に生活習慣病の予防を目指すメタボ検診の受信率は、健保の約60%に対し国保は約28%にとどまっている
[アメリカ経済]
(1)FRB議長、米経済「異例な不確かさ」(7/22) ***
バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、上院で金融政策について証言し、米経済は緩やかな回復軌道にあるとの見方を堅持しつつ、先行きについては「異例なほど不確か」と指摘した。景気減速が深刻になれば、「さらなる政策行動をとる用意がある」とした。ゼロ金利政策など現行の政策を維持する構えだ。これを受け米株式相場が下落し、日本株も終値ベースで年初来安値を更新した。長期金利も日米で低下している。
議長は、FRBの保有資産売却など政策を平時に戻す「出口戦略」を徐々に進める考えを改めて示した。
一方で、経済見通しが異例に不確かであることも認識しているとした。追加緩和策としては、ゼロ金利政策の確約を、米公開市場委員会(FOMC)声明でさらに強めたり、住宅ローン担保証券などの購入を再開したりする案に言及した。ただ、導入条件や時期には踏み込まなかった。
米経済情勢については、財政政策などの景気下支え効果が過去数四半期ほどではなくなると指摘したが、家計や企業の需要が成長の持続を支えるはずだと強調した。一方で、住宅市場低迷や銀行融資の減少など、課題が多いことも認め、失業減に向けた進展はやや遅いとした。加えて、この数ヶ月間、金融情勢が経済成長を支えにくくなっていると発言した。欧州の信用不安が、株価下落などを通じて米経済に影響を与えていることを認めた。今後は、追加緩和策を視野に入れつつ、景気減速リスクなど入念に評価したうえで、政策対応を決めるとの考えを強調した。
(2)米金融規制改革法の衝撃ーFRBの権限重み増す(7/21) ***
金融危機の再発防止を目指す米金融規制改革法が21日成立する。1930年代の大恐慌以来、約80年ぶりの大改革はデリバティブ(金融派生商品)からカード規制の強化まで網羅されている。規制改革の衝撃を探る。
「新法に基づく責任を果たすよう注力する」と、議会で可決された15日、バーナンキ議長は語った。そこには、権限強化が決まった安堵感と緊張感がにじんでいた。1年前は、危機を防げなかったFRBに対し批判的だった議会が可決した法案が、銀行、証券など業態にかかわらず大手金融機関を一元的に監督する権限をFRBに与えたためだ。「FRBはミクロの金融情報、マクロの経済情勢判断、危機対応の緊急融資を統合できる唯一の公的機関」(ブラインダー・プリンストン大教授)との指摘に議会は理解を示したが、新たな体制は課題も多い。
実際の金融監督でも、行政手腕が要求される。経営難の金融機関の分割などFRBの権限行使には関連10省庁の3分の2の同意が必要だ。ホワイトハウスの指示で動く各省庁の合意を探りながら金融安定化を実現していく仕事は、政治からの独立を前提とする金融政策を主体としてきたFRBにとり異質の世界だ。
金融危機の引き金となった銀行以外の金融機関の監督方法も課題が多い。FRBと直接取引きしている銀行と違い、証券会社や保険会社の監視強化は机上の空論の段階だ。これからが始まりと、ガイトナー財務長官は具体化を急ぐと強調した。
(3)米金融規制改革法ー身構えるウォール街(7/22) ***
中国経済は、高めの成長の持続を試す局面に入った。
バンク・オブ・アメリカのモイニハンCEOは、「ボルカー・ルールだけではないんだ」と悩ましげに言った。金融規制改革法のクレディット・カードの手数料を制限する条項だけでも、同社には最大23億ドルの減収要因となるのだ。デリバティブやクレディット・カードなど、新法は金融界にとり最もうまみが大きい分野に切り込む。
ダメージは小さくない。ある試算では、欧米の規制改革でグローバルに展開する金融機関の自己資本利益率は5%台に下がるという。かつての20%超という高い収益は過去のものとなる。
儲けすぎず、リスクは控えめ、安全第一、・・・。新時代への適応はもう始まっている。たとえば、自己資本の充実だ。「中核自己資本」という質の高い資本は、リスク資産に対して約8%が過去の大手銀の標準だった。だが、今は12%程度に高まった。普通株ベースの資本の比率も8〜9%と、日本の大手の銀行の平均を上回る。
新規制のボルカー・ルールでは、銀行によるヘッジファンドなどへの投資は中核自己資本の3%までだ。これを見越し、バンカメやシテイグループは、今年数十億ドル単位で持分を売却した。しかし、このような収益減に対する反抗は、商品・サービスの値上げだ。バンカメは8月から、オンラインやATMサービスだけを無料として、窓口を使う客からは口座手数料をとる。消費者もこれまでの低コストのローンやサービスに安住していられない。
MITのサイモン・ジョンソン教授は、規制をかいくぐる動きが早くも見えるという。例えば、米国外での業容拡大を目指すJ.P.モルガン社だ。教授の目には「米国が破綻法制を整えても、多くの国が絡めば調整がつかない。グローバル化を進めてつぶされない存在になろうとしている」と映る。
過去30年の間に、金融は米国を代表する産業へと上り詰めた。80年代始めには米企業全体の利益の10%程度に過ぎなかったが、2000年ごろには45%、リーマンショック後には15%に落ちたが、09年末には再び35%に回復している。規制改革は、このウォール街支配を崩す分岐点となるか。「ウォール街には強い復元力がある。厳しい規制があっても必ず元通りになる」。リーマンの元幹部はそう確信する。新規制は、船出の瞬間から試練にさらされる。