[国内景気動向]

(1)日本、新興国に期待−日銀強気シナリオ(7/16) **

日本の景気は内需に弱さを抱えながら、新興国を中心とした外需で当面は緩やかな成長を続けるとの見方が大勢だ。比較的強気の景況感を出している日銀は、「経済は回復傾向をたどる」として、今年度の実質経済成長率見通しを上方修正した。

日銀の強気の判断を支えるのは、中国をはじめとする新興国の成長だ。輸出や生産が「想定を上回るペース」(白川総裁)で増加している。所定外労働時間の増加や一部企業の賞与の増加なども見られる。

足元では生産などの経済指標に若干のかげりも見られるが、白川総裁は「急速な持ち直しの後だけに、回復のテンポがある程度鈍化することは予想されていた」と指摘する。ややもたつく米景気も、想定を超えるほどの弱さではないとみる。

ただ、市場関係者や政府には、日銀よりもやや弱めの見方をする向きも多い。欧州では金融市場が不安定になり、景気が悪化し、欧州向け輸出の落ち込みを通じて、中国などに波及する恐れがある。さらに、日本にとっては、円高や株安が実体経済に悪影響を及ぼすリスクなどを重く見る向きもある。円高や株安については、白川総裁は、影響はあり得るが企業収益の急回復や、安定した金融システムをプラス面として指摘した。現時点では、日本の景気回復に水を差すほどではないとの認識を示している。


[アメリカ経済]

(1)踊り場長引く恐れ(7/16) ***

米国の景気回復が足踏みするとの見方が強まっている。米連邦準備理事会(FRB)は、10年の成長率と物価上昇率の予想を低めに修正し、失業率は小幅に高くした。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でデフレへの警戒感も一部に浮上した。利上げはまったく視界に入らず、金融緩和が長引く見通しが高まっている。6月のFOMCの議事録では、複数の参加者がデフレのリスクに言及した。物価の継続的な下落を意味するデフレは日本の悩みであるが、直近のFOMCで半ば公然と議論されたところに、米景気の厳しさが浮かぶ。

FRBは、今年の実質GDP成長率の見通しを4月より0.2ポイント低い3.0〜3.5%に下方修正し、総合物価の上昇率も1.0〜1.1%に下げた。6月の卸売物価指数は、ガソリンなどの値下がりを主因に前月比0.5%下落し、需要の弱さを改めて裏付けた。

6月の小売売上高を部門別に見ると、家具や建設・園芸関連の落ち込みが目立った。住宅市場の冷え込みを映す動きで、5月の米新築住宅販売が過去最大の下落幅を示すなど関連指標は軒並み悪化している。

グリーンスパンFRB議長は、今月上旬、米景気の現状を「典型的な踊り場」と表現し、回復の動きが一時的に止まっているとの認識を示した。

(2)米金融規制法、成立へ(7/16) ***

米金融規制法案が、議会を通過した。オバマ大統領が署名して成立する。銀行と証券の業務分離を定めた1933年のグラス・スティーガル法から約80年ぶりの大幅な規制強化だ。リスクが高い投資などで、金融機関が暴走する芽を摘むねらいがある。締め付けは、活力の低下と背中合わせでだ。安全と活力の両立は世界の課題だ。

銀行のファンドへの投資を制限する「ボルカー・ルール」を、シティバンクの最高経営責任者は、「銀行は銀行。資本を投機にさらすべきではない」と、声明で受け入れの姿勢まで見せた。

80年代以降、米国は競争や革新を優先して規制を抑えてきた。だが、暗部も広がった。影の銀行システムと呼ばれる金融機関だ。銀行に比べ政府の監視が緩い証券会社やファンドは、負債をテコに過剰投資に走った。銀行も99年に証券との垣根が取り払われたのを機に、これらの金融機関を買収していった。

行き着いたのが「大きすぎてつぶせない」ジレンマだった。代償は大きかった。リーマンショック後、政府は巨額の税金で金融機関に資本注入し、連鎖破綻を防いできた。それでも実体経済への影響は大きく、 今も10%近い失業率に悩む。

新法は、銀行の負債や投資にあらかじめ歯止めをかけ、危機に目を光らせる政府組織も新設する。いざ行き詰ったら、政府が乗り出すのは救済ではなく、明確な手続きによる破たん処理だ。金融機関は、円滑な処理案を作成しておかなければならない。破綻を恐れる経営者は、過大なリスクをためらう。

しかし、単なる規制への回帰では、危機の代償が膨らむだけだろう。「363経営」とは、規制下の米銀に使われた例えだ。預金者に3%の金利を支払い、6%の融資で儲け、午後3時からはゴルフだ。規制は、経営の安定化をもたらす反面、企業家精神や金融技術の進化を抑え込んだ。

規制不足が暴走を生み、ゆり戻しの規制強化が活力をそぐ。そんな負の連鎖を避け、経済の進化につなげていけるかどうか。法の運用を委ねられた当局の一手は重い。

注:ボルカー・ルール・・・ボルカー元FRB議長が立案した規制強化策である。銀行経営のリスクを抑 えるため、ファンドへの投資の禁止や自己勘定での取引を大幅に制限する方針を打ち出した。議会の審議で、ファンド投資を中核自己資本の3%まで認めるなど規制の見直しが進み、法案の内容は当初より緩和された。詳細は、米政府が今後作る規則に委ねられた面も多く、導入まで数年かかるとの見方もある。


[EU経済]

(1)資本不足行、EUも支援(7/14) ***

欧州連合(EU)加盟27カ国は、財務省理事会で、域内の健全性を調べる資産査定の結果、自己資本不足が判明した銀行に資本増強を迫る基本方針で一致した。まずは、銀行に自力での増資を要請、それでも不十分ならば各国が公的資金を注入し、さらに必要なら加盟国向け緊急融資を制度を転用して、EUが各国を支援する安全網を用意する。

EU議長国ベルギーのレインデルス財務省は、資産査定の公表後に「必要なあらゆる措置をとる」と言明した。公的資金を含め銀行の資本増強に万全を期す立場を明確にすることで、市場の不信感を解消する狙いがあると見られる。

EUは、5月、ユーロ導入国が金融市場で資金調達できなくなった場合、国際通貨基金(IMF)も含めて総額7500億ユーロの緊急融資制度の創設を決めた。うち、600億ユーロは欧州委員会がEU予算を裏づけに債券を発行する仕組みだ。これを銀行の資本増強に転用し、EU加盟国で公的資金注入の原資が枯渇した場合の「最後の安全網」とする構想だ。

資産査定は、EU加盟国の銀行監督当局で作る欧州銀行監督委員会が23日公表する。公表対象は域内の91行で、域内の銀行資産の約65%をカバーする。想定より成長率が下ぶれしたり、銀行保有の国債が下落した場合、各行に十分な自己資本があるかを点検する。ただ、23日に資産査定の結果をどこまで公表するかは、現時点で未定だ。一部加盟国は難色を示している模様だ。最終的な公表内容は、22日のEU財務省会議による電話会議で決定する見通しだ。


[中国経済]

(1)加熱抑え成長持続(7/16) ***

中国経済は、高めの成長の持続を試す局面に入った。

4〜6月期の実質GDP成長率は、前年同期比10.3%増となり、成長率は1〜3月期の11.9%からやや減速した。景気抑制政策が効き始めた反面、なお投資を中心に堅調だ。4〜6月期の2ケタ成長は、公共投資と輸出の拡大だ。1〜6月の都市部の固定資産投資は、前年同期比で25%を超す高い伸びを示している。また、今年に入り、米欧向けを中心に輸出が急増し、6月の輸出額は前年同期比43.9%増の1374億ドルと単月で過去最高を記録した。ユーロ圏の信用不安などは統計には表れていない。

国家統計局の報道官は、「経済成長の適度な減速は景気の過熱を防ぎ、構造改革と発展方式の転換を進める上で、有利に働く」と訴えた。このため、中国政府は年初から景気過熱を防ぐ措置に動いてきた。

中国人民銀行は、預金準備率を段階的に引き上げ、銀行には融資を絞るよう窓口指導を強化してきた。

しかし、1〜3月の成長率は12%に迫った。中国政府は、さらに強力な対策として、2件目以降の住宅を購入する際の融資条件を厳しくする規制を導入した。そのため、5月以降、住宅の販売量は、急減した。不動産規制は、すでに国内の鉄鋼市場に影響を及ぼしていて、他の業界にも在庫の積み増しなどで冷え込みが及ぶ。

7月以降は、欧州の不安に人民元相場上昇も加わり、輸出の増勢が鈍る可能性がある。中国政府は、内外の課題に目配りしながら成長率の適度な調整を探っている。