[金融情勢]
(1)政府・日銀、危うい一体感(12/2) ***
日銀が臨時の金融政策決定会合で10兆円規模の新たな資金供給を決め、政府・日銀はデフレ対策で足並みをそろえた。政府が財政政策で累積赤字のため手足を縛られる中で、日銀に対応を求める構図が定着する可能性もある。
日銀が緩和策を決めた1日、政府内で歓迎の声が相次いだ。円高と株安で二番底の足音が近づいた先週末、政府は水面下で日銀と調整を続け、成果を引き出した。
先月20日に政府がデフレ宣言をし、円が14年ぶりに1ドル=84円台をつけた27日、藤井財務相が白川総裁と都内で会談し、総裁はデフレ宣言を約束したという。30日、総裁は「デフレ克服のため、最大限努力していく」とデフレ退治を宣言した。
日銀が1日に導入を決めた資金供給手段(新型オペ)は、国債などを担保に年0.1%の固定金利で期間3ヶ月の資金を市場に供給する。誘導目標である翌日物金利だけでなく、3ヶ月物などのやや長めの金利を政策金利0.1%近くに押し下げる効果がありそうだ。性格の似たものに、来年3月で打ち切りが決まっている企業金融支援特別オペがある。年0.1%の固定金利で期間3ヶ月は同じだが、社債やCPなどしか担保に認められていない。幅広く担保に認める新型オペの方が使い勝手は高まりそうだ。
(2)日銀、金融緩和で新手法(12/5) **
日銀が1日に決めた金融緩和は、翌日物金利をこれ以上下げられない中、分かりやすい追加的な緩和余地を別途確保した点に特徴がある。今回3ヶ月に広げた利下げ対象の金利期間をさらに長くしたり、資金供給額(今回10兆円程度)を増やしたりすれば、デフレ防止努力を印象付けられるのだ。
今回は、01年春の金融システム不安の解消というより、実体経済への刺激や円高防止が重要になっており、金利低下の効果を広く浸透させることに力点を置いた。そのため、利下げの対象を翌日物金利から「やや長めの金利の低め誘導」を考案した。資金供給量も明示し、量的緩和にこだわる政府向けに「広い意味での量的緩和」と説明できるようにした。
景気の二番底が現実味を帯びれば、利下げの対象をさらに長めの短期金利にしたり、資金供給量を増やしたりで対応できるが、デフレやドル安の流れが長期化し深刻化するならば、話しは別だ。期間10年などの長期金利の低位安定化を意識した政策が必要になる。そのため、長期国債の購入拡大や時間軸政策の再導入も選択肢になりそうだ。後者は、デフレ解消まで政策金利を上げないと約束し、将来の政策金利がどう動くかの予想に左右される長期金利を低下させる手法だ。99〜06年にも手がけた。
ただ、日銀は06年に物価安定の目安となる消費者物価上昇率を0〜2%程度とする判断を公表済みだ。今さらデフレの間は利上げしないといっても、屋上屋を架すようなものだ。影響力は限られるかもしれない。効果を挙げるためには「たとえば、物価が1%上がるまでは利上げしないというのも一案」(植田和男氏)だ。
日銀は、金融政策の更なるイノベーションを模索し、政府や民間のデフレ克服努力を支援することが求められそうだ。
[インド経済]
(1)インド7.9%成長(12/1) ***
インドの景気に本格的な回復の兆しが見えてきた。7〜9月期の実質GDP成長率は、前年同期比7.9%増と、4〜6月期の同6.1%増を大幅に上回った。堅調な内需と輸出の底入れにより、政府内では今年度(4〜3月)の成長率見通しの上方修正を示唆する声も出ている。ただ、雨期の少雨で農業の失速を懸念する声もあり、政府・中央銀行は、昨年来の景気刺激策の打ち止め時期を慎重に探っている。
回復の兆しの背景にあるのが、欧米向を中心に大幅な前年割れが続いていた輸出に底入れ感が出てきたことだ。今年前半は前年同月比で2〜3割減が続いていた輸出が、10月の速報値で同6.6%減にとどまったことだ。7〜9月期は、個人消費も同5.6%増と急拡大し、消費マインドにも改善が見られる。
当面の懸念材料は、農業部門だ。雨期の少雨の影響で、収穫量の落ち込みが避けられそうにない。農家の消費は、個人消費の全体の55〜60%を占め、農家の収入源は堅調な個人消費の足を引っ張る可能性もある。
インド経済は昨年来の金融緩和と財政支出の副作用で、不動産価格にバブルの気配も見られる。政府・中央銀行は、輸出の回復の足取りや農業部門の動向を見ながら、景気刺激策の打ち止めのタイミングを模索することになりそうだ。