3月第3週(3/15〜3/21)(最高3つの*)
メインテーマ: | 「FRB、国債購入3,000億ドル」 |
その他のテーマ: | 「日銀、国債購入、月1.8兆円へ増額」 |
「大手銀行や地方銀行の資本増強、日銀、劣後ローンで1兆円」 | |
「賢明な財政出動いかに、「ケインズ対民主主義」」 | |
「リーマン破綻から半年、金融不安なお収まらず」 |
(1)日銀、国債購入、月1.8兆円へ増額(3/19) ***
日銀は、18日の決定会合で長期国債の買い取り額を、これまでの毎月1兆4千億円から1兆8千億円に増やすことを決めた。今月から実施する。増額は、昨年12月以来だ。政府与党が追加的な財政出動の検討に入り、市場では国債増発による長期金利上昇の懸念も出ている。買い取り増額で、金融市場への資金供給を拡大し、市場の安定確保を狙う。年0.1%の政策金利は、据え置くことを決めた。
企業決算の発表が集中する5月に向けて、企業業績の悪化が鮮明になり、市場が不安定になるリスクがある。年度明け後も市場の緊張が続く可能性が高いと判断し、追加の資金供給策を決めた。債券市場では、長期金利が低下した。
景気については「大幅に悪化しており、当面、悪化を続ける可能性が高い」と前回の決定会合と同様、厳しい見方を示した。昨年10〜12月期の実質国内総生産(GDP)が、前期比の年率換算で12.1%減と落ち込み、1〜3月期も二桁のマイナス成長が続くとの見方が多い。
(2)大手銀行や地方銀行の資本増強、日銀、劣後ローンで1兆円(3/18) **
日銀は、政策委員会の通常会合を開き、銀行の資本増強を支援するため、劣後ローンによる資金供与を検討することを決めた。国際業務を展開している大手銀行などを対象に、総額1兆円を貸し付ける。株安が進むと、金融機関が自己資本の状況を踏まえ、貸し出しを抑制する懸念があると説明した。政府の公的資金注入を補完する枠組みを用意して、銀行の自己資本の底上げを後押しして、金融システムの安定と景気の下支えを目指す。
日銀が検討しているのは、劣後ローン(劣後特約付き貸し付け)と呼ぶ銀行への貸付だ。銀行が破綻した際の返済順位は、一般の貸付債権などよりも低いが、金利は高く銀行の自己資本に組み入れることが認められている。保有株の低下による自己資本比率の低下を補うことができる。
日銀の公表案によると、対象は国際業務に必要な自己資本比率8%以上を求められている銀行で、メガバンクや有力地方銀行など14行が該当する。貸付総額は1兆円で、1行あたりの上限を設ける。
(1)賢明な財政出動いかに、「ケインズ対民主主義」(3/16) **
ケインズは、需要不足から来る不況を乗り切るには、財政を活用し需要を増やすべしと説いた。それには、暗黙の前提がある。いわゆる、ハーベイロードの前提である。つまり、重要な決定が、知的な人々の小さな集団、すなわち、賢人により合理的になされると考えていた(ロンドンで知的階級が済んでいたのが、ハーベイロードである)。
しかし、現実の民主社会では、賢人だけでなく多様な期待を背負った選良たちが政策を決める。それゆえ、必ずしも合理的で良質の政策が決まるとは限らない。この矛盾は、ブキャナンらの批判の的となった。
急速に需要が落ち込む中で、大胆な財政出動を柱とする追加の経済対策が急がれる情勢だ。先週末の20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)をうけ、追加対策は日本の国際的な責任ともなった。民主社会の政策決定過程とは必ずしも相いれないケインズ政策を、いかにして賢明に活用するかは先進国の大きな課題だ。
賢人のつもりになって考えれば、進むべき方向は割合明確だ。園田自民党政務調査会長代理が述べるように「内需拡大の基盤強化を目指して、向こう3年間集中的に投資する」ということである。特に、環境や医療・介護、安全・安心、教育など、これから伸びる分野、伸ばすべき分野には、不況の今こそ金をかけたい。しかし、政治家や官僚の中には、この機に乗じて内容はともかく、欲しい予算を獲得しようという機運が強いのも事実だ。民主社会なら当然とはいえ、知的な雰囲気のハーベイロードとは、およそ異なる世界がそこにある。追加対策の規模は、過去最大級になるだろう。それだけに筋のよい政策だけで満たすのは、容易ではない。従来型の事業も大幅に入り込みかねない。
もし10兆円以上の財政政策をまともな政策だけで満たせないなら、無駄な公共事業より失業者対策に思い切り予算をつけるほうが建設的ではないか。失業者の教育・訓練、住宅の確保、生活支援を民間の力も借りて大胆に実施する。若い人を再訓練して、次の景気回復に備える点からも意味がある。
ケインズの主著『一般理論』に、こんなくだりがある。政府が地面に穴を掘るだけでも雇用創出の効果があると指摘した後に、「分別ある社会が、場当たり的でしばしば浪費的でさえあるこのような緩和策に甘んじて依存し続ける理由はない」。まさに、「場当たり的で浪費的でさえある緩和策」に、依存し続けてきたのが日本だ。それを繰り返さないためにも、真に効果的な政策を実施しなければならない。
有識者から名案が出ても、政治家が聞き流せばないに等しい。民主主義との折り合いをつけつつ、賢明な政策をとってほしいものだ。
(1)リーマン破綻から半年、金融不安なお収まらず(3/15) ***
大手証券リーマン・ブラザーズが破綻してから半年がたった。ダウ工業株三十種平均は、その間3割下がり、米銀最大手シティグループの株価は、一時1ドルを割り込んだ。米欧金融機関に公的資金を注入したり、政府管理下においたりする動きが一気に広がり、政府の財政負担も急膨張している。実体経済の回復のめどは立たず、世界的な金融不安は解消していない。
リーマン破綻直前と先週13日の株価を比べると、下落率はシティが9割、バンク・オブ・アメリカが8割、比較的業績が安定していたJPモルガンも4割に達する。救済観測に反して1週間で資金繰りに行き詰まり、その後の急激な信用収縮を招いたリーマン破綻の衝撃はそれほど大きく、半年たっても消えていない。投資家は、リーマン破綻を機に、リスク軽視で少ない元手で大きく投資して利益を稼ぐ米投資銀行の事業モデルを疑問視するようになった。
昨年9月以降、シティに計450億ドル、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に計700億ドルの公的資金を注入し、政府管理下においた。アメリカの金融機関への公的資金の注入額は、3月上旬時点で7,650億ドル(約75兆円)だ。アメリカ政府は、金融安定化法で7千億ドルの公的資金を設定し、うち2,500億ドルを資本注入枠とした。危機の深刻化で枠を倍増する案も出ており、財政圧迫要因となりつつある。
一方で、金融機関の業績や公的支援の成否は、実体経済の回復時期に左右される。金融機関の損失は、住宅ローン関連だけでなく、商業用不動産ローンなどに広がりつつある。運用難の保険会社の株価もじりじり下げ、次の政府管理対象になるとの見方も浮上している。
アメリカ発の金融危機は、欧州の金融機関の収益も直撃した。世界的な景気低迷で中・東欧融資などで損失が拡大した。アメリカに先行して、銀行国有化を進めている。業績が悪化した欧米金融機関は、中・東欧や中南米から資金を引き揚げており、新興国通貨の下落に拍車がかかる恐れがある。通貨危機の懸念も強まっている。
(2)FRB、国債3,000億ドル購入(3/19) ***
アメリカ連邦準備制度理事会は(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)で、長期国債を向こう半年で最大3,000億ドル(約29兆円)購入することを決めた。これは、異例の措置だ。住宅ローン担保証券の購入増額などとあわせ、追加の資金供給は合計で1兆ドル超になる。量的緩和による長期金利低下を通じ、景気の一段の悪化を防ぐ。この決定を受け、米市場では長期金利が大幅に低下し、為替市場ではドルが急落した。
中央銀行による長期公国債購入は、イングランド銀行が5日に決定、日銀も18日に増額を決めた。経済危機克服へ世界的な潮流になってきた。
FOMC声明は、新たに導入する長期国債の買い切りを「民間信用市場の状況の改善を支援するため」と指摘した。長期金利が低下すれば、住宅ローンから設備投資の借り入れまで、金利全般の低下が見込める。
特定の金融市場への資金供給策では、さらに拡大する方針を表明した。年内の住宅ローン担保証券(MBS)の購入規模を7,500億ドル拡大し、従来の2.5倍の1兆2,500億ドルにする。政府機関債購入も2,000億ドルにすると決めた。
ゼロに到達した政策金利に代わり、市場に供給する資金量拡大で、金融緩和を目指す方針を一段と強化する。貸し渋りの緩和に全力を挙げる考えを示した。