[アメリカ経済]

(1)独禁法の運用、アメリカが強化(7/25) ***

 アメリカ司法省が反トラスト法(独占禁止法)の運用強化に動き出した。グーグルの書籍検索サービスについて反競争行為の有無をチェックするなど、ITから金融まで幅広い企業部門で調査に着手している。民間経済への介入を強めるオバマ政権の方針に沿った動きで、企業側は規制が強まりすぎると経営の自由度が損なわれると警戒を強めている。

 4月に司法省反トラスト局長に起用されたクリスティン・バーニー氏は、市場競争が消費者利益につながると強く主張する独禁法の専門家だ。5月の講演では、独禁法の運用強化に慎重だったブッシュ前政権の政策について「市場に大きなゆがみをもたらした」と批判した。バーニー局長の下で、司法省は相次いで独禁法調査に踏み切っている。IT分野では、グーグルの書籍検索サービス「ブックサーチ」について調査を始めた。グーグルと米出版界が合意した著作権に関する和解案について、ライバル会社の市場参入を妨げるような内容が含まれているかどうかを調べている模様だ。また、AT&Tやべライゾン・コミュニケーションなど通信大手が寡占的立場を利用して、競争をゆがめている可能性についても司法省は注視しているという。

 市場への介入を嫌ったブッシュ前政権は、厳格運用に慎重だった。このため、過去数年国際的なM&A(合併・買収)について厳しい審査役は、EUの欧州委員会が中心になっていた。アメリカ司法省が厳格化に踏み出すことで、グローバル市場を巡る企業と政府の関係は一段と複雑になる。

 独禁法の強化は、企業の競争力をそぐリスクと隣り合わせだ。特に、IT分野は技術革新で競争の構図が変化しやすい。硬直的な法の運用が、機動的な経営戦略の妨げとなる恐れもある。


[欧州経済]

(1)欧州景気、回復遅れ(7/23) ***

 欧州景気の回復が、日米に比べ遅れるとの見方が強まってきた。個人消費は09年1〜3月期まで4四半期連続のマイナスで、企業活動も低迷が続いている。実体経済の悪化と金融収縮の連鎖はまだやまず、ユーロ圏の成長率は、日米がプラスに転じると見られる10年もゼロ近辺にとどまりそうだ。

 欧州の夏の風景に、異変が生じている。欧州連合(EU)調査では、6人に1人が夏の旅行を断念した。今年に入り、EU域内の個人消費はマイナス幅が拡大した。加盟27カ国の失業率は、5月に9%弱に上昇した。

 企業部門も変調を来たしている。ユーロ圏最大の経済力を持つドイツは、自動車などの輸出で06〜08年に平均2%超成長したが、1〜3月期は年率14%超のマイナス成長だった。外需の約6割はEU域内向けだ。市場拡大の恩恵を受ける分、域内の景気後退の打撃も大きい。

 欧州全体では、製造業の過剰設備が深刻だ。ユーロ圏の設備稼働率は、70%と過去平均より10%以上低い。欧州委員会は、09年の設備投資が前年比約10%減ると予想する。

 欧州は、中・東欧という新興市場を抱え、これが足元で成長の足かせになっている。中・東欧は西欧などの投資資金を使って設備投資を増やし、急成長した。だが、巨額の経常赤字を抱え、資金流出で経済危機に陥った。バルト3国の一つ、ラトビアの1〜3月期の国内総生産(GDP)は年率40%近いマイナスだった。西欧の金融機関の不良債権が増え、貸し渋りで中・東欧経済が一段と悪化する悪循環が続いている。

 昨年末、EUがまとめた2千億ユーロ(26兆6000億円)の景気対策は、加盟国の調整が遅れ、実際の支出は半年程度ずれ込んだ。巨大な単一市場は強みだが、迅速な政策調整を欠けばダメージも一気に広がる。

(2)欧州景気、もたつく回復―決めて欠く雇用対策(7/24) **

 欧州の景気回復がもたついている。各国は、金融・財政政策により景気てこ入れを進めたが、プラス成長に浮上する回復力はいまだ乏しい。

 アメリカと比べ、欧州は雇用の落ち込みが緩やかだ。ユーロ圏の1〜3月期の国内総生産は前年同期比4.9%減ったが、雇用者数の減少率は1.3%だ(200万人)。答えは、政府が補助金で支える「時短労働」にあった。ドイツは、時短による給与目減り分の最大3分の2を政府が補助する手当てを導入しており、時短労働者は約130万人にのぼる。オランダ、スウェーデンなど欧州各国は、失業を防ぐ手段として時短労働支援策を相次ぎ導入した。雇用は維持されているかのように見えるが、時短支援が期限切れになると、欧州の失業者は200万〜300万人増えると見られる。

 時短支援など安全網が機能しているうちはいいが、各国は失業給付の延長などための財政余力は乏しい。安全網が決壊すれば、ユーロ圏の失業率は2桁にはねあがるのは確実だ。

 兆候はある。時短効果が及ばない若年層の失業が急増しているのだ。EU加盟国の25歳未満の失業率は、19%台と1年で4ポイント上昇した。欧州の大半では、人員削減する場合、勤続年数の短い従業員を先に解雇する規制がある。若年層は、時短勤務の恩恵にもありつけない。

 欧州では、失業給付が手厚いだけに長期失業者が増えやすく、後手に回れば景気回復の足を引っ張る。時短導入などの応急措置にとどまらず、抜本的対策を講じる必要に迫られている。

(3) 欧州、もたつく回復−官頼みの産業界(7/25) **

 日本に先行して実施した自動車買い替え支援の効果は大きかった。1〜6月のドイツの新車販売は、前年同期比26%増と当初見込みを40万台強上回った。ドイツ政府の関連予算は、50億ユーロに上る。新車販売を見る限り、欧州産業界は最悪期を脱したように見える。だが、復調を支えるのは政府の支援策だ。新車の買い替え支援は、明らかな需要の先食いで、財政支援は将来息切れする可能性もある。

 欧州では、貿易全体に占めるEU域内取引の割合が半分を占めるが、域内にけん引役は見当たらない。ドイツの輸出は、5月も前年比約25%減と低迷している。そのため、成長には域外輸出の伸びが不可欠だが、外需にも期待しにくい。5月のEU27カ国の鉱工業生産が、前年同月比約16%減と低下に歯止めがかからないのも、輸出不振が最大の要因だ。デフレへの警戒感も残る。6月のユーロ圏の消費者物価は前年同月比0.1%の下落と初のマイナスだった。

 内外需が盛り上がらず、厳しいコスト削減競争が進むなか、新たな成長の種を見失って停滞が続いた90年代の日本企業の二の舞いを危惧する声も出ている。