[財政]
(1) 高速無料化、ハードル多く(9/4) ***
民主党が政権公約(マニフェスト)で掲げた高速道路の原則無料化は、地域経済の活性化や物流コストの引き下げを狙った政策だ。ただ、実現しようとすると、鉄道などの公共交通機関への影響、CO2排出増加による環境問題など乗り越えるべきハードルもの多い。路線を選んで慎重に進めなければ、渋滞などの混乱も起きかねない。
無料化は、高速道路を利用しない人にも恩恵が及ぶ。物流コストが下がれば生鮮食品などの値下がりにつながる。そして、一般道の渋滞緩和効果も期待できる。お盆のJR旅客6社の輸送実績は、前年比8%減と過去最大の減少だ。高速が無料になれば、フェリー航路やローカル鉄道が更なる廃止に追い込まれ、高齢者などの交通弱者の足を直撃しかねない。
財源も問題だ。高速道路の建設にからむ有利子負債は、3月末で30兆7000億円だ。これを、高速6社が年間で計2兆3千億円の料金収入の大半をあてて返している。無料にすれば料金収入はなくなる。民主党は、負債を一般会計に付け替え、ほかの国の借金と同じく60年間で返済する計画だ。約600兆円の国の長期債務残高に、30兆円が上乗せされる計画だ。それでも、年間の元本と利息の支払いで、年1兆3千億円の財政負担で済むと主張する。だが、6社で年6000億円の高速道路の維持管理費は、これには含まれない。新規建設費も対象外だ。
環境への配慮も必要になる。シンクタンクによっては、高速無料化でCO2排出量は年835万トン増えると試算する。民主党は、2020年のCO2排出量を90年比25%減らす目標を掲げるが、この政策と矛盾する恐れがある。
民主党は、渋滞が予想される首都高速と阪神高速は対象外とする方針で、渋滞の恐れがない地方から徐々に広げると見られる。
(2)暫定税率廃止、影響広く(9/5) ***
民主党は、2010年4月から揮発油税など自動車関係諸税の暫定税率を廃止する。道路特定財源の一般財源化により、道路整備のために上乗せしていた暫定税率の課税根拠がなくなったと主張している。地方に住む人ほど、車を使うため、減税の恩恵が大きいと試算し、景気対策の意味合いも込めている(民主党試算によると、1世帯あたりの負担軽減額は平均年5万3千円)。地球温暖化対策との整合性や、税収減をどのように埋め合わせるかが課題だ。ガソリンスタンドの業界団体は買い控えによる混乱を心配し、自動車業界では廃止を歓迎しており、昨年来急速に落ち込んだ販売のテコ入れに期待する。
非政府組織(NGO)の気候ネットワークなどの団体は、8月に暫定税率廃止について「温暖化対策としては逆行するもので容認できない」とする共同声明を発表した。民主党は、20年までに温暖化ガスを1990年比25%削減する目標を掲げるが、本来味方とすべき環境団体からノーを突きつけられた格好だ。
焦点は、民主党がマニフェストに盛り込んだ「地球温暖化対策税」の取り扱いだ。民主党は地球温暖化対策税について、かつて1トン当たり3000円との具体像を示していたが、制度設計は遅れ気味だ。
新政権は、年末までに抜本的な税制改正を議論する時間的な余裕がないため、10年度から暫定税率を先行して廃止し、11年度以降に温暖化対策税の導入を探る動きとなりそうだ。
暫定税率の廃止に伴い、税収は約2兆5千億円の減収となる見込みだ。無駄使い削減などマニフェストで想定した財源手当てが難航すれば、巨額の財源の穴埋め策が必要となる。環境省は、10年度税制改正で暫定税率の廃止に反対する要望をしており、政府内の意見調整も課題となる。
[雇用情勢]
(1) 若年層失業率、先進国で悪化(9/2) ***
欧米などで、若年層の失業率が急速に悪化している。国際労働機関(ILO)の予測では、09年の先進国の若年層(25歳未満)失業率は16〜18.7%になる見込みだ。全世代平均の7.7〜7.9%を大幅に上回り、比較可能な1991年以降で最悪水準になる可能性がある。世界経済の底入れ期待が強まる中、日本を含めた先進国では若年層の雇用環境が懸念される。
欧州連合(EU)統計局が発表した7月のユーロ圏16カ国の失業率によると、若年層失業率は19.7%に達した。前年同月比4.3%の大幅な上昇だ。
米国でも、若年層の失業は深刻な状況だ。7月時点での20〜24歳の失業率は、15.3%となった。前年比で4.9%の上昇で、全世代の3.6%上昇に対して悪化ペースも急速だ。
7月の完全失業率が過去最悪の5.7%となった日本でも、若年層(15〜24歳)に限ると9.9%と高く同様の傾向にある。
日米欧の先進国で、若年層の失業率の悪化が進んでいるのは、金融・経済危機で企業が新規採用の凍結・縮小に動いたためだ。専門知識や経験に乏しい若年層が、企業のリストラの対象になりやすいという事情もある。景気の底入れを反映して、米国企業では従業員の大幅なリストラや給与カットを見直す動きも出始めたが、若年層の雇用環境の改善は遅れている。
若年層の雇用情勢が、特に厳しいのは欧州だ。企業が勤続年数の短い従業員を先行して解雇する傾向が強く、EUでは加盟27カ国の若年層の失業者が500万人を超えた。
このような状況の中で、米国、英国、フランスなどが雇用創出や職業訓練といった対策を始めるなど、若年層に絞り政府が就職支援を進める動きも出ている。
[アメリカ経済]
(1) 米失業率9.7%に悪化(9/5) ***
米労働省が発表した8月の雇用統計では、失業率は9.7%となり、前月比0.3ポイント上昇した。1983年6月以来、最悪の水準となった。非農業部門の雇用者数は、前月比21万6000人減となり、7月(27万6000人減)から減少幅が縮小した。失業者増加の勢いは弱まってきたが、雇用情勢の厳しさが改めて確認された。
失業率は、10%の大台に迫ってきた。企業の生産活動などは、最悪期を脱したものの、依然企業が雇用を増やすのに慎重な姿勢を続けている。雇用者数の減少は20ヶ月連続で戦後最長を記録し、この間に約690万人の雇用を失ったという。ただ、悪化ペースは、徐々に緩やかになっており、雇用者数の減少幅は逓減している。
米景気は下げ止まりつつあるが、企業が雇用を増やすほどの力強さには欠ける。雇用情勢には、依然として先行き不透明感が残っている。