10月第1週(9/28〜10/4)(最高3つの*)

メインテーマ: 「景況感5年ぶりマイナスー日銀9月短観」
その他のテーマ: 「鉱工業生産前月比3.5%低下」
「アメリカ発の世界同時減速」
「アメリカ金融安定法が成立」

[景気動向]

(1)鉱工業生産前月比3.5%低下(9/30) ***

 経済産業省によると8月の鉱工業生産指数は104.5となり、前月比3.5%低下した。2ヶ月ぶりの低下だが、現行の基準を採用した03年以降では最大の下げ幅となった。自動車や、一般機械などの生産減少が響いた。生産の低下幅は、過去の基準を含めるとITバブル崩壊後の01年1月以来の大きさだ。経産省は、生産の基調判断を3ヶ月連続で「弱含みで推移している」で据え置いた。

 業種別の生産指数をみると、自動車などを含む輸送機械工業が9.1%低下した。北米や中近東向けの乗用車が減った。半導体製造装置などを含む一般機械工業も5.9%低下した。


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(2)景況感5年ぶりマイナスー日銀9月短観(10/1)***

 日銀が発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)によると(重要30用語参照)、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス3と、6月の前回調査から8ポイント低下した(表参照)。四・四半期連続の悪化で、DIがマイナスとなるのは03年6月以来で、5年3ヶ月ぶりだ。アメリカ発の金融不安により、海外経済が減速し、国内企業の輸出が鈍化した。原材料高による収益圧迫も続いている。景気の後退色が、一段と鮮明になっている。

 企業の業況判断DIは、景況感が良いと答えた企業の割合から悪いと答えた企業の割合を差引いた値である。大企業製造業でDIが悪化したのは全15業種のうち11業種に上る。自動車や精密機械など7業種葉は、輸出の減少や原材料価格の高騰が響き、前回調査より10ポイント以上低下した。そして、先行きのDIはマイナス4と9月時点より1ポイント低下する。

 大企業非製造業のDIはプラス1と、前回調査から9ポイント低下した。全12業種のうち、11業種が悪化した。不動産や建設は市況が冷え込んでいるほか、小売や卸売りなどは個人消費の低迷が響く。中小企業製造業はマイナス17と7ポイント悪化した。非製造業もマイナス24と4ポイント低下した。

 エネルギー・原材料高による企業収益への下押し圧力もなお強い。外需の減退は鮮明で、海外での製商品需給判断DIは05年12月以来、2年9ヶ月ぶりの供給超過となった。

 企業の資金金調達も厳しさをやや増している。資金繰りが「楽」との回答から「苦しい」を引いて算出する資金繰り判断DIで、大企業はプラス15となお余裕があるが、二・四半期ぶりに低下した。一方、中小企業はマイナス11と五期連続で苦しいとの回答が上回っている。

[業況判断指数DIの動き]
9月調査(前回比)
大企業製造業 −3(−8)
大企業非製造業 −1(−9)
中堅製造業 −8(−6)
中堅非製造業 −12(−7)
中小企業製造業 −17(−7)
中小企業非製造業 −24(−4)


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[世界経済]

(1)アメリカ発の世界同時減速(9/29) ***

 アメリカの景気は、金融危機の直撃で一段の減速が予想され、新興国経済の足取りも重くなっている。日本の景気後退も、内外需ともけん引役を欠く中で、浅くても低迷が長引く恐れがある。

 ブッシュ大統領は「アメリカは金融危機のさなかにある。放置すれば、長く痛みの伴う景気後退になりかねない」として、難航している金融安定化法案への理解を国民に呼びかけた。

 日本政府は、すでに8月の月例経済報告で景気の後退局面入りを認めた。その要因は、アメリカ発の世界同時減速と、資源価格の高騰による日本から海外への所得流出の二つだ。いずれも海外発だ。

 アメリカ経済の先行きには暗雲が広がっている。10〜12月期の実質国内総生産(GDP)のエコノミスト予測は年率0.2%成長に落ち込み、下方修正の公算も大きい。しかも経済のグローバル化が進み、危機の波及スピードは格段に速くなっている。リーマン証券の破綻を受け、日欧米の株式相場が急落した。世界の社債の発行額は前年に比べ二割減っており、企業の資金調達にも影を落とす。

 新興国でも、変調の兆しが出ている。4〜6月期まで十・四半期続けて二ケタ成長を維持してきた中国は、7〜9月期の成長率が一桁台に減速するとの観測が浮上している。人民銀行は、6年7ヶ月ぶりに利下げに踏み切り、景気対策に比重を置き始めた。インド経済も頭打ち感が漂う。インフレを抑えるための金融引き締めが景気を冷やし、7月の乗用車販売台数は、3年ぶりに前年割れで、8月もマイナスだった。ここ数年の10%前後の増勢に急ブレーキがかかった。

 国際通貨基金は、4.1%としていた08年の世界経済の成長率見通しを秋の改定で3.9%に下げる方向だ。

 世界経済の減速は、外需頼みで成長してきた日本経済に打撃になる。輸出は、02年からの景気回復の中で、実質成長率の6割分の貢献をしている。輸出の鈍化で、4〜6月期の鉱工業生産は二・四半期連続の前期比減を記録し、7〜9月期も減少が予想される。

 企業の減産を受け、設備投資にも陰りが広がっている。法人企業統計の設備投資は前年水準を下回っており、04年から続いた増勢が途切れた。

 企業部門の停滞は家計も収縮させる。春以降、実質賃金が伸び悩む中で生活必需品の値上がりが続き、消費者動向調査では、消費者心理は過去最低の水準に落ち込んだ。

 資源国への所得流出(交易損失)も重荷になる。4〜6月期の海外への所得流出額は、年率28兆円と過去最大を記録した。資源高の中心である原油先物相場は、昨年の平均が1バレル約70ドルだ。今年7月に147ドルまで急騰した後、反落したとはいえ、もっと下がらなければ所得の流出が09年1〜3月期まで続く。そして、企業は資源高を前提にした新価格体系への対応を迫られる。しかし、省資源型の設備に更新したり、新分野の開拓などの対応には、相当な時間を要する。第二次石油危機時の1980年3月から始まった景気後退を抜け出すのに3年を要し、戦後13回の後退局面で最長となった。

 石油危機や金融危機が世界を襲った時、各国が経済の底割れ防止策をとると共に、下支え役が現れた。01年のITバブル崩壊と同時テロのショックでは、中国を始めアジア新興国の高成長が支えになった。アメリカは金融緩和で二・四半期連続のマイナス成長を回避した。

 日本経済は、この10年で企業部門が設備、雇用、債務の3つの過剰を解消して筋肉質になり、地力をつけた。アメリカの金融危機封じ込めが前提だが、現在は在庫調整の規模が小さく、新興国経済も底固さを残しており、日本の景気後退も深くならずに済む公算が大きい。

 政府は緊急経済対策を打ち出したが、定額減税などで内需を支えても、資源高と金融危機が主因の景気悪化への対策としては限界がある。財政悪化を招く政策は市場の信任を失うであろうと疑問視もされる。低迷を長引かせないためにも、政府の政策に誤りがないか見極める必要がある。


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[アメリカ経済]

(1)アメリカ金融安定法が成立(10/4) ***

 最大七千億ドル(約七十四兆円)の公的資金で金融機関から不良資産を買い取ることを柱とする金融安定化法が、3日成立した。ブッシュ大統領が即日署名した。アメリカ発の金融危機の封じ込めへ、過去最大規模の税金を投入する金融対策が動き出す。

 大統領は、声明で「アメリカ経済を脅かしている信用収縮の緩和に向けた断固たる措置になる」と評価した。ボールゾン財務長官は、新しい権限を迅速に実行に移すとの声明を出し、公的資金による不良資産の買い取りを早急に開始する意向を示した。ただ、資産の買い取り価格mなど制度の運用には不透明な部分が残っており、売却に伴う損失の処理で金融機関の自己資本が不足する恐れもある。同胞の成立で危機が収まるかどうかはなお流動的だ。

 下院は、9月29日、当初法案を共和党を中心とした反対で可決した。これが世界同時株安の引き金となった。修正案では、金融機関が破綻した場合に保護する預金の上限額を十万ドルから二十五万ドルに一時的に2.5倍に引き上げたほか、一部の個人や企業向けの税制優遇措置を延長・拡充した。減税額は総額で約千百億(約十一兆六千億ドル)だ。

 金融安定化法の柱である不良資産の買い取り制度は、当初案のまま残った。財務長官の権限で金融機関から市価の低下した住宅ローン債権などを公的資金で買い取り、金融機関の将来の損失拡大に歯止めを掛ける。そして、監視委員会の設置や、制度を利用する金融機関経営者の報酬・退職金制限も盛り込んだ。


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