8月第5週(8/24〜8/30)(最高3つの*)

メインテーマ: 「戦後最長景気、実感なく幕」
「政府決定、経済対策11.7兆円規模」
その他のテーマ: 「国民年金積立金、2047年度に枯渇」
「国民医療費、なお高止まり」

[景気動向]

(1)戦後最長景気、実感なく幕(8/29) ***

 与謝野経済財政相は、「景気後退は去年の暮れぐらいから始まっていた可能性がある」と、8月1日、景気後退をあっさり認めた。内閣府が、「踊り場の範囲内」と言い続けたのとは、対照的な歯切れのよさだった。これを受けて、政府は8月の月例経済報告で、景気の後退局面入りを事実上認めた。決め手になったのは、景気のけん引役だった輸出と生産の停滞だった。その後発表された4〜6月期の実質国内総生産(GDP)も、前期比年率3.0%減と四・四半期ぶりのマイナス成長となり、景気後退を裏付けた。

 正式の認定までは時間がかかるが、仮に07年12月まで回復局面だったとすると、景気の拡大期間は71ヶ月で、これまで戦後最長だった「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月の57ヶ月)を上回る。景気が谷から山に向かう回復・拡大局面は、戦後13回あり、今回を除く過去12回の平均期間は、約33ヶ月であった。今回の拡大期間はその倍となる異例の長さに及んだ。逆に、山を越えた景気が谷に下降する後退局面の平均は16ヶ月だ。今回の景気後退は、これによると平均的には来春まで続く計算になる。

 回復期間が記録的なら、成長の伸びが小さかったことも記録的だ。戦後の景気拡大局面の期間中の平均成長率(実質)を試算すると、今回は2.1%で最低であった。いざなぎ景気は11.5%、バブル景気は5.4%とはるかに高い。最大の原因は、経済のグローバル化だ。厳しい国際競争の下で、企業が賃金引上げに慎重となり、景気回復の恩恵が家計に波及しなかったといえる。人口も減少に転じており、成長率が伸びないのはやむを得ない面もあるが、これでは成長を実感するのは難しい。

 企業は、バブル崩壊で負った債務、設備、雇用の3つの過剰を解消し、経営を改善したのに、家計への配分は進まなかった。そこに食料品の値上げなど物価高が加わり、個人消費に打撃を与えた。

 輸出頼みの鮮明さも記録的といえる。08年度の経済財政白書の分析では、実質GDPの伸びへの輸出の寄与度は61%と、過去の景気回復局面では最大であった。中国やロシアなど新興国向けに輸出が急拡大したことが背景にある。この輸出依存体質が、逆に世界経済の減速の影響をもろにかぶる脆弱さを招いた。

 これに資源価格高騰で交易条件が悪化したことによる海外への多額の所得流出が加わり、景気減速を決定的にした。

 では、景気が再び浮揚するための条件は何か。一つは、新興国だけでなく、欧米向けの輸出の回復だろう。もう一つは、原材料高騰を招いた原油価格に歯止めがかかるかだろう。


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(2)政府決定、経済対策11.7兆円規模(8/30) ***

 政府は、物価高や原油高への対応を柱とした総合経済対策を決定した。融資枠の拡大など財政支出を伴わない対策も含めた事業規模は、11兆7,000億円だ。財政支出は2兆円で、うち1兆8,000億円を今年度補正予算で賄う。赤字国債は発行しない方針だが、対策に明記した所得税や住民税の定額減税の年度内実施には、さらに財源が必要となる。

 対策の名称は、「安心実現のための緊急総合対策」である。今年度予算の前倒し、補正予算、来年度予算を通じた「切れ目ない連続的な施策実行」を目指す。福田首相は「財政規律を堅持し、赤字国債の発行は行わない」との方針を示した。ただ、補正に必要な1兆8,000億円は、税外収入や剰余金を集めても確保できないとの見方がある。与謝野経済財政担当相は、建設国債の活用には前向きだ。

 事業規模のうち、約9兆円は中小企業金融公庫の信用保証制度拡充による中小企業に資金繰り支援に充てる。そして、燃料費高騰の影響が大きい運送業対策として、高速道路の通行料金引き下げを実施する。今年末に期限切れする住宅ローン減税も、延長・拡充する。そして、後期高齢者医療制度の保険料負担軽減や、消費者行政の強化などの項目も盛り込んだ。また、減税の恩恵を受けられない低所得者に「臨時福祉特別給付金」を支給する方針も盛り込んだ。

 ただ、定額減税の財源については、対策で明示されていない。第二次補正予算の編成では数兆円規模の財源が必要との見方もあり、増税が行われない限り赤字国債の追加発行が必要となる。


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[財政]

(1)国民年金積立金、2047年度に枯渇(8/24) **

 基礎年金の国庫負担割合を将来も二分の一に引き上げず、将来も36.5%にとどめた場合、自営業者らが加入する国民年金の積み立て金が2047年度に枯渇するとの厚生労働省の試算が、23日明らかになった。

 政府は、04年の年金改革で09年度までに国庫負担を二分の一に上げると決めたが、必要な2兆円あまりの財源のめどは立っていない。現行では、今世紀半ばから積立金を計画的に取崩し給付に充てる予定だが、国庫負担を上げなければ積立金の取り崩しが早まる。試算では、年金の給付水準を、現行の「現役世代の手取り収入の50%以上」よりも下げ、40%強に抑えるという前提だ。それでも現在10兆円弱の国民年金の積立金は約40年後に底をつく。

 近い将来、国庫負担引き上げが実現し、対応が遅れた間の財源を補えば制度は維持できるが、給付水準の引き下げや保険料アップが必要になる可能性もある。


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(2)国民医療費、なお高止まり(8/29) ***

 厚生労働省は、06年度に医療機関に支払われた医療費の総額(国民医療費)が、前年度比13億円減り、33兆1,276億円になったと発表した。4年ぶりに減少したが、依然過去最古水準で高止まりしている。

 06年度は、診療報酬引き下げや医療制度改革で医療費抑制を目指したが、急速な高齢化で医療費の膨張圧力は強く、抑制効果は限られた格好だ。年齢層別では、65歳未満の平均が158,200円だったのに対し、65歳以上は643,600円で約4倍だ。国民医療費に占める65歳以上の比率は51.7%と、前年度を0.7%上回り過去最高となった。

 06年度は、医療費抑制を目的にした政策が大きく動いた年であった。医療費の単価は、診療報酬が過去最大の3.16%引き下げられ、医療機関の報酬は大きく低下した。また、70歳以上で現役並みの所得がある人の病院窓口の自己負担が2割から3割に上がるなど、患者負担が増えたほか、高額医療費の自己負担も引き上げられた。

 しかし、実際の医療費は、高齢化の進展や医療の高度化を背景に高止まりだ。07年度も、概算段階で前年度比1兆円増えて過去最高を更新しており、今後も増加が続きそうだ。


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