6月第5週(6/24〜6/30) メインテーマ:「上がらない消費者物価」(最高3つの*)
(1)アジア通貨危機10年(6/26) **
東アジア全体の経済混乱に拡大した「アジア通貨危機」からまもなく10年がたつ。アジア経済は、中国の急成長や東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済統合の動きなどで、大きく変貌した。
97年、タイでは年初から異変が起きていた。タイはドルとバーツの交換レートを事実上固定する「ドル・ペッグ」制を採用していたが、ヘッジファンドはバーツを猛烈な勢いで売り続けた。バーツをドルで買い支えていたタイ通貨当局の資金が尽きたのは、7月2日である。タイ政府は、変動相場制への移行を余儀なくされた。バーツは1年もたたないうちに半値まで下落した。同様にして、通貨危機は、東アジア各国に広がっていった。
これより以前に、アジア各国は資本取引を自由化する一方、自国通貨を対ドルで固定させて外資導入を競い、欧米や日本の投資家も積極的に応じた。しかし、95年にアメリカが強いドル政策に転換すると、ドルに連動するアジア通貨も上昇し、次第にアジア通貨の過大評価が拡大していく。ヘッジファンドはこの不安をつき、アジアへの資金の流れを急激に逆回転させた。96年には、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、韓国の5カ国に外国銀行から653億ドルが流入していたが、翌年には逆に256億ドルが流出した。
通貨危機後10年で、東アジア経済は強くなった。通貨危機に対抗するための外貨準備は、タイなど5カ国に中国を加えると、97年(2,355億ドル)の6.4倍に達する。しかし、対するヘッジファンドが06年にアジア市場で運用した資金は1,390億ドルと97年(90億ドル)の15倍以上に膨らんでいる。高水準の投資資金の流入は、何かのきっかけで急速な資金流出に変わりうる。やはり、危機は過去とは違うパターンで突然やってこないとは限らない。
(1)上がらない消費者物価(6/30) ***
総務省によると、5月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比0.1%下落し、4ヶ月連続の下落となった。薄型テレビやパソコンなどIT関連製品の値下がりが影響した。一方で、食品やトイレットペーパーなど身近な商品では値上げが相次いでおり、生活実感と統計との乖離が大きくなっている。
この乖離が生じる原因の一つは、CPIが通常、生鮮食料品を除いた指数で表されることにある。生鮮食料品を含む5月の指数は、前年同月と同水準だ。前月比では0.3%の上昇となっている。生鮮食料品だけでなく、ガソリンやクリーニング代など、購買頻度の高い商品・サービスの値上がりが目立つ。一方で、IT製品など、購買頻度の少ない商品・サービスの価格は下落を続けている。消費者にとっては、物価下落を実感する機会が少ないわけだ。
もうひとつの原因は、品質調整と呼ばれる統計上のマジックだ。総務省は新製品の投入が早いパソコンとデジタルカメラの指数算出で、販売価格が同じでも性能が2倍になれば物価は半分と評価する方法を採用している。
物価の先行きは、景気回復が賃金の上昇に波及するかどうかがカギを握りそうだ。現金給与総額は、4月まで5ヶ月連続で前年を下回った。失業率が3.6%を下回れば、賃金も上昇に転じるという見方もある。
(1)課徴金と罰金併科支持−独禁法懇最終報告(6/27) **
独占禁止法の見直しを議論している独占禁止法基本問題懇談会(官房長官の私的懇談会)は、最終報告書をまとめた。報告書は、違反企業に命じる課徴金と刑事罰の罰金の両方を科す併科を支持するなど、日本経団連のほとんどの主張を退ける内容だ。公正取引委員会は、08年の通常国会に独禁法改正案を提出するため、今後政府・自民党と議論を進めるが、経済界の巻き返しも予想されるため、調整は難航しそうだ。
報告書は、課徴金について、制裁的な効果をもたらすとしても刑事罰のように道義的非難を目的とするものではないとし、併科は二重処罰には当たらないとした。また、課徴金の額についても、違反行為をする動機付けを失わせるのに十分な水準に設定すべきと、引き上げの方向を提言した。いずれも経団連の主張を退ける内容だ。
提言の背景には、欧州連合(EU)などより課徴金の水準が低い事情がある。EUは、今年1月日欧10社の国際カルテル事件で約1,200億円の制裁金を科すと発表した。一方、日本の課徴金の最高額は、今年3月、談合で三菱重工業など5社に納付を命じた総額270億円だ。
また、報告書は、不当廉売など不正な方法で競合他社を締め出す排除型私的独占について、競争侵害の程度を踏まえれば、違反金(課徴金)の対象とすることが適当と提言した。排除型私的独占については、EUは制裁金を、アメリカは多額の罰金を科している。
日本商工会議所が求めていた優越的地位の乱用など「不公正な取引方法」を課徴金の対象とすることについては、懇談会の結論は出なかった。
経団連は、公取委の行政処分に対する不服申し立ての審査を公取委自身が行っている現在の審判制度を廃止し、裁判手続きに委ねるべきだと主張している。しかし、報告書は、独禁法は高度な専門性に基づく執行・判断が求められるほか、早期の紛争解決を図ることが出来るとして、審判制度の存続を支持した。ただ、公取委が処分決定後に自らの処分の是非を判断する現行の方式は、不信感を助長しやすいとして、経団連の主張にも理解を示した。その上で、将来は、処分決定前に審判する05年までの方式(事前審査方審判方式)に戻すべきだとの考えを打ち出した。