11月第4週(11/19〜11/25)メインテーマ:「歳出削減徹底を提言−財政審建議」(最高3つの*)
(1)APEC閉幕、乱立FTA利害交錯(11/20) **
アジア太平洋経済協力会議(APEC)は、今回のハノイ会議で貿易自由化の枠組み作りを、世界貿易機関(WTO)などに委ねる従来の姿勢を転換し、自由貿易協定(FTA)を重視する意向を打ち出した。域内FTAが相次いでいることが背景だ。既に誕生もしくは協議されているFTAの数は、アジア地域内だけで20ある。
従来、APECは、WTOでの交渉を自由化の中心に位置付けてきたが、ドーハ・ラウンドが中断していることもあり、FTAを域内の自由化にどう役立てるかの議論を避けて通れなくなった面が強い。アメリカが主張したアジア太平洋FTAはアメリカの野心が見え隠れするとして、他国は警戒感を抱いたが、最終的には研究開始で合意し、来年の首脳会議で成果を報告することにした。
APECは「ボゴール宣言」を掲げ、作業を進めている。しかし、強制力はなく、その後もどう自由化を進めるかは定めていない。アメリカが提唱したFTA構想は、関税引き下げなどで各国の自主的努力を前提とするAPECの設立理念とは本来相容れない、しかし、このFTA構想で、貿易の自由化の推進に限界を見せ始めていたAPECの機能が強化できるとの意識が芽生えている。この構想が新たなモデルになる可能性があるのである。
(APECについては、「重要30用語」参照)
(1)個人消費鈍化に懸念(11/23) **
政府による11月の月例経済報告は、現在の景気拡大がいざなぎ景気を超えたとの認識を示した。しかし、個人消費が弱含んできたため、景気の現状を示す基調判断を1年11ヶ月ぶりに下方修正し、景気の先行きに不透明感が広がってきた。今後は、企業部門の好調さが、家計にどう及んでいくかがカギとなりそうだ。
7〜9月期のGDP速報では、個人消費が前期比0.7%減と2四半期ぶりにマイナスに転じ、前回の踊り場だった04年10〜12月期以来の大幅な落ち込みとなった。
11月の月例経済報告では、個人消費は前月の「伸びが鈍化している」から「おおむね横ばい」へと2ヶ月ぶりに下方修正した。先行きについても、企業から家計部門へ好調さが波及する経路が少し弱まっているとしている。
所得環境の厳しさによる消費の低迷だけでなく、アメリカ経済の減速による輸出や設備投資の低迷も予想され、いざなぎ景気を超えた景気拡大が、いつまで続くのか予断を許さない。
(1)歳出削減徹底を提言−財政審建議(11/23) ***
財政制度審議会(財務相の諮問機関)が答申した07年度予算編成に関する建議は、国の財政を「常軌を逸した事態」と異例の厳しさで指摘した。
しかし、06年度の税収増加分を巡り与党内で新たな予算要求が相次ぎ、歳出拡大の圧力は強い。安倍内閣が、どこまで財政再建と経済成長の両立を貫けるか注目される。財政審の西室会長は、歳出削減ではなく、主に成長による税収増で財政再建を果たすとする路線にノーを突きつけた。このような路線の背景には、景気回復により、歳出削減しなくとも税収が自然に伸びていくという甘い考えが漂っている。
今回の建議は、聖域視されがちな分野にも切り込み、歳出削減に向けた厳しい表現が並んだ。雇用保険の国庫負担に廃止を明記したほか、生活保護の母子加算制度も廃止へと踏み込んだ。
財務省は、景気回復による税収増を基本的に財政健全化に向ける方針だ。安倍政権の初の予算となる06年度補正・07年度予算で財政規律の堅持がなし崩しになるようだと、財政再建の実現に早くも赤信号が点滅することになる。
(2)法人税減税、競争力強化に何をすべきか(11/25) **
企業の競争力強化のためには、法人の税負担も海外に足並みを合わせ、軽減していく必要がある。政府と与党の税制調査会が、企業の実質税負担に大きな影響をもつ減価償却制度の見直しについて、大詰めの議論を進めている。外国に比べ不利な仕組みとなっている現状を放置すれば、国際競争力に響く。来年度税制改正では、外国並みの制度に改めなければならない。政府税調の本間会長は、さらに法人実効税率の引下げも提唱している。
減価償却は、機械・設備などに法定耐用年数を定め、その年数で案分した額をコスト(損金)として毎年の利益から差し引くことを税法で認める制度だ。諸外国では100%の償却を認めているが、日本は95%にとどめている。法定耐用年数も一般に外国より長い。100%償却を認め、設備の陳腐化が激しいハイテク産業を中心に、法定耐用年数の短縮も図るべきだ。耐用年数が長いと、計上できる損金が少ない分だけ利益が増え、納税額が膨らんでしまっている。
法人実効税率は、国税の法人税と、地方税の法人住民税、法人事業税を合わせ、企業が税引き前利益からどの程度の税負担をしているかを見る指標である。各国の実効税率は次のとおりである。
日本 40.69% 米・カリフォルニア州 40.75% ドイツ 39.90
イギリス 30% 中国 33% 韓国 27.05%
このうち、企業の海外流失に悩むドイツは、最近、実効税率を30%未満に引下げる法人税改革の素案を発表した。
現在は、企業が税制などを比較し、世界中から立地する国を選ぶ時代だ。巨額の財政赤字を抱える日本に取り税率引き下げは容易ではないが、企業に海外逃避されてしまっては元も子もない。
(1)住宅、インフレ懸念表明、アメリカ成長率下方修正(11/24) ***
アメリカ政府が21日に発表した経済見通しの改定値は、住宅市場とインフレというアメリカ経済が抱える二つの懸念要因が改めて浮き彫りとなった。
アメリカ政府は、住宅市場が予想以上に冷え込んだとして、06年の実質GDP成長率を6月の見通しより0.5%下方修正し、3.1%と予測した。しかし、住宅市場の冷え込みが消費など他の分野に波及していないため、アメリカ政府は、経済は軟着陸に向かっているとしている。
一方、原油価格の下落を受け、アメリカ政府は、06年の消費者物価上昇率の予想を6月時点での3.0%から2.3%に引き下げる一方、07,08年の予想は共に前回から引上げ2.6%とした。依然として、インフレへの不安は残っている。3回連続で金利を据え置いたFRBが今後どう対応するか注目される。