インフォーメーション・サービ99:2006年度対策 経済史・経済事情 連載第12「中国の社会主義市場経済」


]U 中国の社会主義市場経済

 中・東欧諸国の改革が、政治改革から始まり急進的な改革が行われたのに対し、中国は、改革が経済改革から始まり、漸進的に行われてきた。93年3月の全国人民代表大会で、「社会主義市場経済」が憲法に盛り込まれ、「改革・開放路線」が強化された。

 低賃金やWTO加盟などにより、2002年に世界一位の受入国となった直接投資の増加や、日米に取り第一位の輸入相手国となった輸出の増加などにより、毎年高成長を達成しており、2004年も9.5%の成長であった。しかし、2003年からは景気が過熱化しており、財政・金融の引締め政策がとられている。

(1)90年代の中国経済

 実質GDP成長率は、直接投資の受け入れなどにより、92〜95年まで二桁の成長であった。しかし、消費者物価上昇率が高くなり、93年以降引き締め政策が行われ、96年以降消費者物価上昇率は抑制された。一方で、成長率は高く維持され、結局、90年代の平均成長率は、9.7%であった。

(2)2000〜2002年の中国経済

 90年代後半、高成長とはいえ、成長率が年々鈍化する中で、98〜99年に続き2000年も国債発行により公共投資を増加させ、2000年の実質GDP成長率は8.0%と高い成長となった。2001年は、積極的な財政政策が行われたが、世界経済の後退により、輸出が伸びず、7.3%の成長となり、前年より低下した。

 しかし、2002年は、積極的な財政政策、アメリカ向けを主とする輸出の増加、そして、それによる鉱工業生産の増加などにより、実質GDP成長率は8.0%の高成長となった。そして、2001年11月に、WTOに加盟し、外資系企業の輸出規制が緩和されたことも、輸出の拡大を促進したといえる。

(3)2003〜2004年の中国経済

 2003年は、前半はSARSによる個人消費の低下により、成長は鈍化したが、年後半は回復し、実質GDP成長率は9.1%の高成長であった。高成長の主な要因は、企業の設備投資や不動産投資などの固定資産投資の増加であり、前年比26.7%増加した。

 固定資産投資の急速な増加による景気の過熱が懸念されているが、中国人民銀行は、銀行貸出金利の上限引上げや法定預金準備率引上げなど、様々な金融引締め措置を行った。そのため、2003年末に固定資産投資の伸びが一時鈍化した。

 2004年の実質GDP成長率は9.5%と、前年と同様に、アジア通貨危機以来最も高い成長となった。固定資産投資が経済をけん引したが、輸出や消費も成長に寄与した。固定資産投資は、一部業種での投資過熱懸念に対し、直接規制や、前年と同じく金利引上げなどが行われ、伸びが抑制された(2004年第一四半期は前年同期比47.8%の伸びであったが、04年全体では27.6%の伸びまで抑制された)。

(4)貿易摩擦による人民元引上げ

 輸出は年々増加し、2004年には日本とアメリカにとり、中国は最大の輸入相手国であった。特に、アメリカにとっては中国は最大の貿易赤字相手国である。そのため、アメリカは、人民元の為替レートの引上げを迫っていた。その結果、中国政府は、2005年7月に、ついに人民元の2%引上げを決定した。しかし、小幅な引上げであったため、その後もアメリカの人民元引上げの圧力は継続している。

(5)2001年にWTO加盟

 WTO協定は、最恵国待遇(すべての加盟国への平等な待遇)と内国民待遇(加盟国を自国より不利に扱ってはならない待遇)を原則とし、外国のモノ、人、企業の差別を禁止している。それゆえ、中国の市場経済の機能と透明性を強める役割を果たしている。

協定の主な内容

a.全品目の単純平均の関税率を、98年の17.5%から2010年には9.8%へ引下げる。

b.農産物は、同時期に22.7%から15.0%に引下げる。

c.IT関連製品は、関税率を2025年頃には最終的に0%にする予定ある。

d.農産物の補助金の上限を、加盟後は農業生産額の8.5%とする。

e.銀行、保険、流通、電気通信は、外資規制の削減、撤廃の方向とする。

(5)伸びる中国への直接投資

 中国の高成長を支えているのは、直接投資の拡大である。特に、WTO加盟が中国への直接投資を加速した。2001年以降、景気後退により世界の直接投資が減少したにもかかわらず、中国への直接投資は増加を続けた。2002年に、中国の直接投資実行額は、500億ドルを超え、アメリカを上回る世界一の直接投資受け入れ国となっている。

 この海外からの直接投資の増加が、中国の経済成長を大きく促進している。2001年の鉱工業生産額に占める外資系企業の比率は、28.5%に上っている。特に、電子通信機器の外資系企業の生産比率は74%も占めている。

 また、外資系企業の雇用機会の創出も大きなものがあり、外資系企業の従業員は、2001年末には671万人に上っている。

(6)財政赤字

 中国の財政赤字は、慢性的である。財政赤字の対GDP比は、97年の0.8%から2002年の3.0%へと急増している。内需拡大のために、アジア危機以降に大量の国債発行を行ってきたためである。しかし、2003年からは、企業収益の伸びと物価上昇により税収が伸び、2004年には財政赤字の対GDP比は2.5%へと低下した。 今後も、西部大開発などの大型プロジェクト、国有企業の経営悪化による四大国有商業銀行の不良債権処理に伴う負担など、財政負担の増加は不可避である。

 財政赤字が拡大をすれば、財政の硬直化や民間の資金需要を圧迫し、経済成長を抑制することになりかねない。

(7)地域格差の発生

 高成長を達成してきた中国であるが、一人当たりGDPで約13倍という地域間格差が発生している。2001年の一人当たりGDPは、上海市では34,547元であるが、貴州省はこの約13分の1である。また、2004年には、都市住民の所得は、農民の所得の3.2倍である。

 2005年の全人代(国会)において、温家宝総理は、この問題解消のため、畜産税は全面免除、5年以内に廃止が予定されていた農業税(平常作柄の一年の収穫高により課税される国税)の廃止時期を3年以内に短縮するとした。財政赤字を抱える中でこのような措置を打ち出すのは、農業重視の姿勢を示したものといえる。

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