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2005年下半期 日本経済10大トピック

2005年下半期の日本経済のトピックで、特に重要なものを10件ピックアップしました。これは、週間トピックからの抜粋です。


(1)経済財政白書の要点(2005/7/16) ***

 閣議に提出された2005年度の経済財政白書は、日本経済がバブルの後遺症を克服したことを宣言する一方で、今後は「小さな政府」、「官から民へ」への実現を図る必要があると強調している。また、2007年から始まる人口減少と団塊の世代の大量退職を始めて取り上げ、経済への影響を多角的に分析した点が大きな特徴である。

 竹中経済財政相の巻頭言は、「日本経済はバブル後と呼ばれた時期を抜け出した」と宣言した。その上で白書は、日本経済は景気回復の長期化を目指していると現状を分析した。2002年初めからの景気回復の特徴として、日本経済の足かせとなっていた企業の雇用・設備・債務とう3つの過剰問題がほぼ解消された点を挙げた。その結果、企業の損益分岐点は低下し、デフレで売上高が停滞しても利益が出せるよう体質が強化されつつあると指摘した。家計部門についても、リストラが一段落して03年以降失業率が低下し、雇用・所得環境が改善していると指摘した。金融面では、大手銀行に対して不良債権の抜本処理を迫った政府の金融再生プログラムなどの政策が、景気を悪化させることなく不良債権問題の正常化につながったとしている。一方で、デフレは依然続いており、日銀にデフレ克服へ向けた金融政策運営の継続を求めた。そして原油高騰や輸出の伸び悩みが景気に悪影響を与える恐れを指摘したが、景気は今後も緩やかな回復を続けていく可能性が高いと結論づけた。


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(2)774兆円、膨らむ長期債務(2005/8/31) ***

 国と地方を合わせた長期債務残高は、2005年度末に774兆円と国内総生産の1.5倍に達する見通しである。90年代のバブル崩壊後の政府の経済対策により、巨額の国債が発行される一方で、不況で税収は落ち込み、加速度的に債務が膨らみ先進国で最悪となっている。英国病に苦しんだ70年代のイギリスですら、長期債務はGDPの1倍程度であったのと比べると、日本の深刻さが際立っている。

 内閣府の試算によると、プライマリーバランスは、05年度で約20.4兆円の赤字であり、2012年度には23.1兆円にまで増加する見通しで、歳出削減だけで赤字を解消するのは極めて困難である。国の一般会計の税収は、90年度の60.1兆円がピークで、05年度予算では44兆円にまで落ち込む見通しである。

 財政再建のカギを握るのが、歳出削減と税負担のバランスである。本間阪大教授は、「赤字の半分以上は歳出削減で、残りを景気回復による税収増と増税で賄うのが望ましい」と指摘する。


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(3)公共事業、ピークから半減7.5兆円(2005/9/8) ***

 公共事業関係費は、道路や空港などの社会資本の基盤整備を行うための国の支出である。小泉内閣が発足するまでは景気対策の有力な手段であったが、財政改革や聖域なき改革を掲げた小泉内閣の下では、公共事業関係費の削減が続き、2005年度の当初予算ベースでは7.5兆円と、98年度のピーク時と比べ半減し4年連続の減少である。公共投資(用地費を除く)の対GDP比でも、2004年は6%を超えていたが、アメリカやフランスとほぼ同程度となった。

 一方、バブル崩壊後の景気対策としての公共事業の効果は限定的であったが、財源の国債の増発で、財政状況を一段と悪化させた。

 少子高齢化の進展により、社会基盤が大きく変わろうとする中で、無駄な公共事業を大胆に見直し、優先度の高い重点分野への集中投資をさらに押し進める必要がある。


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(4)GDP上方修正、内需主導の回復鮮明(2005/9/13) ***

 内閣府は、4〜6月期の実質GDP成長率の改定値を年率換算3.3%とし、速報値の1.1%を大幅に上方修正した。設備投資の増加と堅調な消費による内需主導の景気回復が鮮明になり、政府・日銀が8月に宣言した景気の踊り場からの脱却を裏付ける内容となった。しかし、原油高が長引くと、アメリカ経済が減速し日本の輸出鈍化となり、日本経済に跳ね返ってくる懸念もある。

 設備投資の伸びの2四半期連続の3%台の成長は、IT景気と呼ばれた2000年7〜9月期から10~12月期以来4年半ぶりで、企業の設備投資意欲の強さを示している。

 投資意欲が回復しているのは、多くの企業が過剰債務を解消し、収益を投資に回す余力が出てきたためである。


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(5)特別会計の見直し急務(2005/9/16) ***

 衆議院選で自民圧勝をもたらした有権者の「改革を加速せよ」という声が、ほとんど手つかずであった特別会計の抜本的な見直しへと財務省を動かしている。新たな借金に頼らず財政の政策的経費を賄っていくプライマリーバランスを2010年代初頭に黒字化を実現するには、一般会計だけでなく特別会計の改革は避けられない。国の特別会計は、現在国債整理基金特別会計など31あり、9省が所管している。歳出の純計額だけで205.2兆円と、一般会計82.2兆円の2.5倍に膨れ上がっている。このうち、一般会計から47.7兆円が繰り入れられている。

 従来、無駄遣いや不透明さが指摘されていたが、特別会計が独自財源を持つものもあるため、所管官庁の発言力が強く、聖域化されがちであった。プライマリーバランスは、05年度の国の一般会計では15.9兆円の赤字を見込んでいる。特別会計などや地方も合わせたプライマリーバランスは、20.5兆円の赤字であり、さらに深刻となっている。しかし、地方は2.5兆円の黒字であるが、国全体の赤字は23兆円に上り、一般会計と比べ赤字が約7兆円増える。そして、その大半が特別会計であり、約2.5兆円が一般会計から繰り入れを受けている「交付税及び譲与税配布金特別会計」である。

 首相が目指す「小さな政府」の実現には、一般会計と特別会計の両面から官邸主導で徹底的に無駄をあぶり出す必要がある。

プライマリーバランスについては、「重要30用語」参照)


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(6)基準地価、東京23区15年ぶり上昇(2005/9/21) ***

 国土交通省によると、土地取引の目安となる7月1日時点での都道府県地価(基準地価)を発表した。全国平均の地価は、前年に比べ4.2%値下がりし、14年連続の下落となったが、東京23区の住宅地、商業地はともに1990年以来、15年ぶりに上昇に転じた。首都圏や大阪、名古屋圏でも地価が上昇した地点が増え、地方圏でも下落幅が縮小した。デフレの一因となってきた地価下落の下げ止まりが鮮明になってきている。

 地価が都市部を中心に下げ止まっているのは、景気が底固く推移する中で、収益型不動産に対する投資や、値ごろ感がある都心のマンション、オフィスの需要が活発になっているためである。そして、容積率の規制緩和を追い風にした再開発や、公共交通機関の整備が進んだことも土地の需要を後押ししている。

[2005年基準地価の対前年変動率] 全用途平均 全国平均 −4.2% 三大都市圏 −2.9%  東京圏 −2.5% 東京23区 0.5%(住宅地)0.6%(商業地) 大阪圏 −3.9% 名古屋圏 −2.6% 地方圏 −4.7%


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(7)郵政民営化法成立、特殊法人残る課題(2005/10/15) ***

 郵政民営化法が14日成立し、郵政マネーに大きく依存する官製金融の改革は、重要な一歩を踏み出した。政府系金融機関の改革論議も11月の基本方針策定に向けて始まった。

 約340兆円の郵便貯金・簡易保険の巨額マネーは、国債や財投債に投資され、国や特殊法人の事業を支えている。国の財政投融資制度は、2001年度の改革で郵貯の国への全額預託義務はなくなった。しかし、公社・公団や政府系金融機関の事業資金となる財投債は、大量に引受けている。郵貯・簡保の保有資産は、国債だけで176兆円もあり、財投改革後も資金の流れに大きな変化はない。

 民営化のスタート時点では、郵貯の約4分の3に政府保証が残るが、徐々に減っていく。民営化後に認められる融資業務などを通じて、「民」にも資金が流れるようになる。しかし、運用先が一気に民間への融資に移行するとは考えにくい。郵貯などが大量の国債を売却すれば、国債価格の大暴落を引き起こし、金融市場を大混乱させかねない。

 民営化だけで特殊法人等の事業資金が急速に絞られるわけではない。マネーの流れを民へと切り替えるには、資金の入り口である郵政事業と、出口である特殊法人等の改革を同時並行で進めることが不可欠である。


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(8)大手銀行過去最高益(2005/11/25) ***

 大手銀行6グループの05年9月中間決算は、過去10年間に60兆円の不良債権処理に追われ、保有株式の下落に苦しんだ「失われた10年」との決別を鮮明にした。最高益の主因は、不良債権化していた貸出先の経営先が改善し、不良債権処理で損失計上した引当金の戻り益である。これが、新規の処理費用を上回り、6グループ合計で差し引き1,900億円のプラスになった。有価証券含み益は、6グループで5兆円を超え、経営体力も高まった。

 各グループとも、05年度通期では、6グループ合計で処理額が戻り益を2,500億円上回る見込みである。しかし、2兆円の処理損失を計上した前年度の8分の1である。ようやく不良債権処理の時代に終止符が打たれようとしている。

 株式市場の好転も財務基盤の安定に一役買っている。9月末の有価証券の含み益は6グループ合計で5兆円を突破した。株式の売却益も1,800億円と前年同期の3倍以上であり、持ち株は今や利益の源泉となっている。

 しかし、本業のもうけを示す実質業務純益は、三菱UFJ、りそなホールディングス、三井トラスト・ホールディングスが前年同期比減少し、三井住友も横ばいである。原因は貸し出しの不振であり、利ざやが競争で縮小し、収益が伸びていない。投資信託などの手数料で補っているのが現状である。今後は、無担保ローンなど高利ザや商品の投入で、利回りを改善する取組みも各行の課題となる。


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(9)定率減税2007年全廃(2005/11/26) ***

 政府税制調査会は、06年度税制改正の答申を正式決定し、小泉首相に提出した。所得税と個人住民税を年間で最大29万円減税している定率(2割)減税を07年に全廃することを明記したほか、パソコンなどを購入した企業の法人税を減税するIT投資促進税制と研究開発税制を、期限切れの05年度末に廃止することなどを盛り込んだ。景気回復を背景に、増税色の強い答申となった。与党はこれを受け、税制論議を本格化し、12月中旬に06年度の与党税制改正大綱を決定する。

 焦点となっていた消費税については、直接言及せず、来年6月以降にまとめる中間答申に議論を先送りした。

 定率減税は、来年1月からの半減が決まっている。今回の答申通りに07年1月から全廃されれば、年収700万円の夫婦と子供2人の世帯で現在より8万2千円の負担増となる。


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(10)2006年度与党税制改正大綱決定、増税2兆円超(2005/12/16) ***

 自民・公明両党は、2006年度税制改正大綱を決定した。99年から実施してきた所得税と個人住民税の定率減税を07年に全廃することが柱で、企業向け減税の縮小なども含め、06年度税制改正は、国と地方の合計で2兆円超の実質増税となる。

 定率減税は全廃を明記したが、景気動向次第で全廃する次期を再検討する余地は残した。全廃により、所得税と個人住民税を合わせ、納税者一人当たり現在よりも最大29万円の増税となる。


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