インフォーメーション・サービス91
(1)危うしEU憲法、オランダも拒否(2005/6/3) ***
EUの新基本条約であるEU憲法は、1日のオランダ国民投票がフランス国民投票よりさらに大差で拒否を突きつけたことで、脳死状態に陥った。欧州統合の中枢であったフランスとオランダによる拒否は、統合の利益が自明であった時代が終わったことを意味する。
EU憲法は、東方拡大を踏まえEUを効率的に運営する規則をもたらすはずであった。しかし、両国の否認は、東方拡大を事後的に否認し、さらなる加盟国増加に疑義を呈した意味をもっている。フランス国民は、東方拡大で自国の影響力が低下し、さらにフランス企業の東欧移転と東欧からの労働力流入で、自分達の雇用が奪われることを恐れた。
EU内では、これ以上の拡大は避けようという立場が強まりかねない。イスラム国で
あるトルコと、今年10月に予定しているEU加盟交渉が吹き飛びかねない気配である。
2005年下半期 世界経済10大トピック
注:EU拡大・・・
2004年5月に、中東欧諸国など計10カ国がEUに加盟した。今年4月には、ルーマニア、ブルガ二アと加盟条約を結び、2年後には27ヶ国体制となる予定である。クロアチア、トルコは、加盟候補国となっている。バルカン諸国やウクライナも加盟意欲を持っている。
(2)ユーロ安、導入時に迫る(2005/6/27) ***
ユーロ相場の下落が止まらない。1ユーロ=1.2ドルを割り、99年のユーロ導入時の水準にほぼ戻った。3年に及ぶ相場上昇局面は終わったとの見方が増えている。最近のEU憲法の承認に絡む混乱で、統合・拡大によるEUへの市場の期待が後退し、人民元改革やアメリカとの金利差の拡大も、ユーロの下落要因となっている。
(3)中国人民元切り上げ、対ドル2%(2005/7/22) ***
中国人民銀行(中央銀行)は、人民元レートを事実上米ドルに固定している為替制度を廃止し、21日午後7時からこれまでの1ドル=8.2765元から、1ドル=8.1100元に2%切り上げると共に、米ドル、欧州ユーロ、日本円に一定割合で連動すると見られる通貨バスケット制を参考にした管理変動相場制を採用したと発表した。人民元為替レートの変革は、94年に約30%切り下げて以来、11年振りである。
導入する通貨バスケット制は、1日の変動幅は、対ドルで前日の終値上下0.3%ずつ、合わせて0.6%と小幅にとどまる。今回の通貨バスケット制への移行は、海外からの人民元の固定制への批判をかわす狙いがあると見られる。通貨バスケット制は、変動相場制への移行の中間的な措置と位置付けられ、今後も海外から変動相場制移行への取組みが求められそうである。
(4)日・タイFTA基本合意(2005/9/2) ***
小泉首相とタイのタクシン首相が、日本とタイの自由貿易協定(FTA)を柱とした経済連携協定の締結で基本合意した。タイは、これまでのFTA相手国のうち、日本との貿易額は最大で、更なる貿易・投資の拡大が期待される。ただ、日本からの完成車の輸出が、当分高関税の状態に据え置かれるなど、暫定的な合意の側面も否定できない。
完成車の関税が先送りされたが、自動車部品の関税は2011年までに撤廃されることになった。タイでの自動車製品の9割を占める日本メーカーにとり、日本から部品を輸入しやすくなった。そのため、トヨタ自動車などは、タイを東南アジアの中核拠点と位置付け、設備投資を増やす考えである。タイは、アメリカの自動車産業都市のデトロイトをまねて、アジアのデトロイトを目指している。2010年までに生産台数を倍増させ、年180万台とする計画である。
また、タイは、日本にとりアメリカ、中国、オーストラリア、カナダに次ぐ農産品の輸入国である。今回の合意で、農林水産品2300品目のうち、1400品目の関税が撤廃される。この関税撤廃や引下げにより、日本国内の消費者は価格面でメリットを受けるが、生産者にとり競争が激しくなり、苦境に立たされる局面も予想される。
(5)ASEAN市場統合効果じわり(10/3) ***
東南アジア諸国連合(ASEAN)の市場統合が進み、日本企業などは関税引き下げの恩恵を受け、域内での生産活動を活発化させている。しかし、魅力ある市場作りには、関税の撤廃時期の前倒しやサービス分野の自由化加速などが欠かせない。日本との自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉促進も課題である。
関税引き下げで完成品や部品の流通が容易になり、日本企業を始めとしてASEAN域内で国境をまたいだ分業体制を作りやすくなった。域内関税率は9月末現在、シンガポールやマレーシアなど先行加盟6カ国の平均で1.87%と、93年当時の12.76%から大幅に低くなった。
例えば、松下電器産業はフィリピンの工場を閉鎖しマレーシアからの全面輸入に切り替えた。2003年から関税率が下がったことで、年産200万台の大量生産体制が整っているマレーシアから輸入した方がコスト面で有利になるためである。
しかし、中国やインドと海外からの誘致を激しく争っているASEANにとっては早急な関税撤廃が不可欠である。また、先月末のASEAN閣僚会議は、すべてのサービス貿易を2015年までに自由化することで合意した。
(6)EU4つの危機(2005/10/23) **
ブリュッセル自由大学のマリオ・テロ所長は、EUは4つの危機に直面し、統合は停滞期に入ったとして、以下のとおり述べている。
第1の危機は、EU憲法のフランスとオランダの批准失敗で、機構上の危機に陥ったことである。第2に、英仏の対立で、07年〜13年のEU中期財政計画策定交渉が決裂したことである。第3は、政治指導力の危機である。これは、仏独に顕著である。第4は、拙速なEU拡大が招いた危機である。
危機の背景は、この20年ほどのかつてない速度の統合の反作用といえる。加盟国は15カ国から25カ国に増え、ユーロも手にした。統合は60年代、70年代と停滞したが、今回は、少なくとも3年程度は脱せないだろう。
危機を克服するには、政治指導者が必要である。強力な指導者がいなければ、EUは漂流する。
(7)アメリカ7〜9月期成長率加速(2005/10/29) ***
アメリカ商務省によると、アメリカの7〜9月期の実質GDP成長率は前期比3.8%増と、成長が加速した。5四半期連続で伸び率が3%超の個人消費が景気を後押しした。しかし、原油高や財政支出の増加によるインフレ懸念の高まりや、住宅バブルが予断を許さないなど、先行きは不透明感が増している。
ハリケーン襲来で近辺の製油所が一次閉鎖に追い込まれるなど、ガソリンなどエネルギー価格が高騰したことや、復興のための財政支出の増大でインフレ懸念は確実に高まっている。9月の消費者物価は前月比1.2%の上昇で、25年半ぶりの高い伸びとなった。
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレへの対抗姿勢を強めており、昨年来12回連続となる利上げを実施する見通しである。短期金利の指標となるFF金利の誘導目標は年4%に達する見通しで、2001年5月以来の水準となる。
(8)EU統合、行き過ぎは修正を(2005/11/23) **
欧州統合を進めてきた国々で、統合一辺倒の姿勢を改める動きが出てきた。欧州統合の優等生であったオランダの2大政党の一つで最大与党の労働党が、「統合の行き過ぎは修正すべきだ」との立場に転換した。EU憲法の批准が6月に国民投票で否決され、批准推進の同党も予想外の支持者離反に遭ったためである。与党も呼応しつつあり、EU政治に波及しそうである。
労働党のコール議長は、農業と公益事業は、国が権限を取り戻すべきであるという。EUは各国農業の生産調整や価格調整を行っているが、EUが農家に支払う補助金など農業政策費はEU予算の4割を占める。オランダはEU予算拠出金が国民一人当たりで最大なため、補助金漬けの農業政策で損をする仕組みである。また、政府から補助金が支払われる第三セクター方式の公益事業は、自由競争に違反するとして、EUは各国政府に警告しているが、公益事業には貧困層への住宅供給なども含まれる。同議長は、各国が特色ある政策を導入しようとしても、市場原理が竜巻のように吹き飛ばしてしまうと述べている。
一方、EU25か国の国会代表者協議会は、欧州統合に行き過ぎがないか国会として注視していくことで合意した。行き過ぎを認めた場合、EU共通政策の執行機関である欧州委員会に対し、警告する方針である。ただ、今のEU諸条約では、この種の警告は拘束力を持たない。しかし、欧州統合が諸国民の手の届かないとところで進行しているという不満が各国で高じており、それに呼応した各国国会の動きは一定の重みを持ちそうである。
(9)欧州中銀5年ぶり利上げへ(2005/11/24) ***
欧州中央銀行(ECB)が、12月1日に5年2ヶ月ぶりに政策金利2.0%を引上げる方針を決める方針である。インフレ予防を強く意識したもので、上げ幅は0.25%となる公算が大きい。2006年のインフレが2%を超す見込みで、2%以下の目標を維持できないことが利上げの根拠になる見通しである。他方、原油高の賃金、物価への影響を確認しておらず、利上げは予防的な意味合いが強いことを印象づけた。
ECBは、2000年10月に利上げを実施して政策金利を4.75%として以来、03年6月まで7回利下げして過去最低の2.0%をほぼ2年半続けていた。
(10)アメリカ0.25%利上げへ(2005/12/14) ***
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、短期金利の指標となるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引上げ、年4.25%とする方針である。これで、2004年6月以来13回連続の利上げとなる。
7〜9月期の実質GDP成長率は、年率換算で前期比4.3%増と好調であり、FRBはインフレ抑止のため小幅利上げを継続すると見られる。