インフォーメーション・サービ161:2016年年頭所見
 原山広之先生[東海大学教養学部国際学科講師(2011年)]


「労使とも賃上げの新時代」

企業が労働力を始めとして生産要素を投入して付加価値を生産する。そして、その付加価値は、資本、経営者、労働力等に分配される。分配されるこれらの当事者たちは、当然より多くの分配を得ようとするだろう。賃金は労働者に分配されるものであるが、賃金引上げが労働者により要求されるだけではなく、昨今では資本家、経営者によっても支持されるという状況が生じているのはなぜだろうか。ここでは、単純化して付加価値が経営者と労働力のみに分配されると仮定しよう。

本サイトのトピック12月第4週にもあるように、安倍首相が経団連の年次総会で経営側に賃金引き上げを要請したとのことである。首相が総裁でもある自民党は経団連と一心同体であり、首相が唱えることはほぼ経団連と一致するものといってもいいであろう。つまり、経営側も賃金引き上げに大きくは反対ではないと見てもよいということになる。

かつて、労働組合の賃上げの要請に経営側が対峙し、交通機関が何日も止まるというように、国民生活に影響を与えるほど労使が対立してきたのである。ところが、昨今では、経営側も首相の先導で賃上げに肯定的な姿勢を示すようになってきたのである。これは、歴史的な大変化といってもよいであろう。

それでは、なぜこのような状況が生まれてきたのであろうか。それは、次のような経済理論が浸透するようになってきたからであろう。賃上げにより労働者の所得が増える。所得が増えれば消費支出が増え、各GDPにおける消費支出が、図のC1からC2へと上方シフトする。そして、決定されるGDPは、Y1からY2へと増加する。その結果、雇用も増え、デフレも解消する傾向となる。

Figure

 このように、経済理論の発展・普及が賃金をめぐる労使対立という経済問題を解消しつつあるのである。他にもさまざまな経済問題が、利益集団間で発生し存在している。しかし、経済理論の発展と普及がこのような問題を解き、利益集団間の問題の解消が期待される。その意味で、経済学者の理論構築などの活躍がますます期待され、重要となってくるのであろう。