インフォーメーション・サービ158:
原山広之先生 明治大学外交官講座講師(1993〜2003年)


「2013年 年頭所見―国債発行によるフィスカル・ポリシーの終焉」

財政には、3つの機能があると言われる。第一に、財政の資源配分機能、いわゆる公共財の供給などである。第二に、財政の所得再分配機能である。これは、社会保障政策に代表される。第三に、減税、公共事業などの財政の景気安定化機能である。

最初の2つの機能は、依然として重要であり、その機能に関しては、異論は少ないだろう。問題は、第三の財政の景気安定化機能である。この中で、いわゆる国債発行による財源調達の補正的財政政策(フィスカル・ポリシー)が問題となるのである。これは、ケインズ政策ともいわれ、公共事業や減税などにより、有効需要を高め、GDPの増加を図り、雇用増加を狙ったものである。すなわち、積極的財政政策である。この狙いは、そのとおりGDPを高め、雇用増加も達成できるのであるが、財源が国債発行という国の借金に頼ることによる財政赤字の累積すなわち債務残高の増加という副作用を伴っている。

GDPの増加が税収を増やし、この借金を帳消しにしてくれるのならば、何も問題はない。確かに、税収は増えるのであるが、借金を帳消しにするまではいかず、常に借金の相当の部分が残ってしまうのである。その結果、各国の恒常的な巨額の債務残高という結果となるのである。特に、日本の債務残高は深刻で、対GDP比で214.1%(2012年)となっている。

たとえば、国債発行額をB兆円として、同額の公共事業の政府支出増加を凾fだけ行ったとする。

貿易を除いた単純なモデルでは、GDPの増加凾xは、

凾x={1/(1−c+ct)}凾f  Y:GDP c:限界消費性向  t:税率

                   G:政府支出 凾ヘ増加を示す。

となる。この場合、税収増加凾sは、

凾s=t凾x   T:税収

となる。凾f=Bであるので、現実は、次式が成立している。

B>凾s=t凾x

それゆえ、

財政赤字増加=B−凾s>0

が発生する。これを解消するには、税率を大幅に引き上げる必要がある。14年からの消費税引き上げは、当然十分ではないが、その意味があるといえよう。しかし、当面は、国債発行によるフィスカル・ポリシーでは、財政赤字が増えてしまうのである。

常に、借金が残ってしまう経済政策では、恒常的に行うことは無理である。従って、財政に頼る機能としては、公共財の供給などの資源配分機能と、社会保障政策などの所得再分配機能に限定すべきであろう。このようにして、国債発行によるフィスカル・ポリシーの景気安定化機能は、歴史的にその役割を終えたといえよう。

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