インフォーメーション・サービ154:2009年度対策 経済事情Y 世界貿易機関(WTO)と自由貿易協定(FTA)
Y 世界貿易機関(WTO)と自由貿易協定(FTA)
要約:1986年9月以来の交渉の末、1994年4月に、ウルグアイ・ラウンドは妥結し、世界貿易機関(WTO)がその実施機関として設立された。また、2001年末に、ドーハ・ラウンドの開始が宣言され、交渉が行われたが農業分野の市場開放の対立は解消されず、06年7月に交渉は決裂した。
WTOの多国間の交渉が停滞している一方で、二国間のFTAは、90年代以降急増し、今後も加速すると見られ、対照的である。
1 世界貿易機関(WTO)の発展
(1) ウルグアイ・ラウンド(多国間貿易交渉)は、7年以上の交渉の後、94年4月に合意され、市場アクセス分野やルール分野で多くの合意がなされた。例えば、先進国の平均関税率の40%引下げや、知的所有権の保護、直接投資の自由化、サービス産業の規制緩和の必要性、紛争処理手続きの迅速化などである。
(2) ウルグアイ・ラウンドで合意された内容を実施するために、95年に76の国・地域の参加により、世界貿易機関(WTO)が設立された。WTOには、紛争解決規則および手続きの運用、貿易に関する加盟国間の交渉の場、各国の貿易政策の審査などの機能もある。2006年7月末現在で、WTOは150カ国・地域が参加している。
(3) GATTが主に物品の貿易のみを扱ってきたのに対し、WTOはサービス貿易、知的所有権(ソフトウェアやバイオテクノロジーなど)、直接投資などの新分野も対象としている。
(4)2001年11月の閣僚会議で、新ラウンドであるドーハ・ラウンドの開始が宣言された。全体を統括する貿易交渉委員会の下に、次の5つの交渉グループが存在する。
a.農業 b.サービス c.鉱工業品 (a〜cは市場アクセス)
d.環境保護と貿易の関係 e.WTOの既存ルールの見直し
(5)しかし、ドーハ・ラウンドは、06年7月の主要6カ国・地域閣僚会合でも農業分野での市場開放の対立は解消されず、交渉は決裂した。各国が国内事情を優先させたため、譲歩の姿勢を見せなかったためである。
日本やEUは、アメリカに国内の農業補助金の削減を求めるとともに、他国への関税削減の厳しい要求を取り下げるように求めたが、アメリカは応じなかった。11月に中間選挙を控えているためである。しかし、農業市場の開放に慎重なのは日本も同じで、全農産品に一定水準以下の関税を課す「上限関税」の導入を阻止する姿勢を崩さなかった。
(6)WTO交渉、例外品目数最大6%に
世界貿易機関(WTO)は、多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の08年の年内大枠合意に向け、農業と鉱工業品議長がまとめた貿易自由化ルールの最終案を発表した。閣僚会合のたたき台となる。農業では、関税削減の例外扱いとなる重要品目数は、全体の4%が原則と明記し、これに2%は上乗せできるものの、計8%を主張していた日本の要求は認められない形になった。
金融・経済危機の中で保護主義の台頭を防ぐ上でも、ドーハ・ラウンドの大枠合意は国際的に重要視されている。WTOのラミー事務局長は、「もはや非現実的な要求をする時ではなく、世界的な問題解決に向けて結集すべきだ」と訴えた。
鉱工業品では、14産業を対象に、自発的に関税をお互いにゼロにする制度に参加を表明している国を公表した。自動車産業では、関税撤廃を表明したのは日本のみで、実現は困難になった。
鉱工業品では、14産業を対象に、自発的に関税をお互いにゼロにする制度に参加を表明している国を公表した。自動車産業では、関税撤廃を表明したのは日本のみで、実現は困難になった。
ラミー事務局長は、最終案に対する各国の反応を確かめた上で、12月にジュネーブで閣僚会合を始める。
2 FTAとWTO―経済連係の進展
日本の貿易の自由化は、GATT(関税および貿易に関する一般協定)とWTO(世界貿易機関)により推進されてきた。しかし、近年、特定の国・地域において、FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)を締結する活発な動きが見られる。すでに発効した国と暦年は次のとおりである。
2002年 シンガポール
2004年 メキシコ
2006年 マレーシア
2007年 タイ
2008年 インドネシア、ブルネイ、フィリピン
東南アジア諸国連合(ASEAN)―発効済みは、シンガポール、ラオス、ベトナム、ミャンマーのみ。
(1) FTAの90年代以降の顕著な増加
FTAは、地域的な貿易自由化を目指すものであり、加盟国間での関税撤廃を基本とする協定である。そのため、WTO(世界貿易機関)規定とその解釈においても、次の事項が条件とされている。
a.加盟国は、実質的にすべての貿易の自由化を行うこと
b.自由化は、10年以内に行うこと
c.締結前後で、関税等がより高度または制限的なものであってはならない
すなわち、WTOは、世界の貿易の無差別の自由化を原則とするものであるが、FTAについても高度な自由化を推進するものであるならば、世界貿易の自由化につながるものとして、例外的に認めている。
このようなFTAは、90年代以降著しく増加している。WTOに通報されているFTAなどの経済連携は150件であるが、90年代以降に締結されたものが大半である。欧米先進国によるNAFTA(北米自由協定)やEU(欧州連合)により、FTAの取組みは加速したが、最近は途上国が関係したものや地域横断的なものも増加している。
(2) WTOの拡大と交渉の停滞
GATTを引き継ぎ、貿易の無差別原則(最恵国待遇・内国民待遇、注(1)参照)などを基本ルールとするWTOの交渉には、近年、若干の停滞が見られる。その一例として、ドーハ・ラウンドの交渉の凍結である。
このように、交渉が進みにくくなった背景には、93年のウルグアイ・ラウンド妥結以降において、次のような変化が生じていることがある。
第一に、加盟国数の拡大である。GATT体制下のケネディラウンド(1964〜67年)では、参加国数が62カ国であったが、2001年以降のドーハ・ラウンドでは、150カ国・地域へと大きく増加している。特に、途上国の増加が中心であった。その結果、参加国の利害が一致しにくくなり、交渉の合意達成が容易ではなくなったのである。
第二に、自由化対象の拡大である。世界経済の発展により、財の貿易だけでなく、サービス貿易や投資に関する自由化についても、交渉対象となってきた。また、これまで対象外とされてきた農業分野も、ウルグアイ・ラウンドで農業合意が行われ、交渉の対象となってきた。さらに、競争政策や知的財産保護などの国内措置も対象に加わるなど、多角的自由貿易体制におけるルール作りが進められている。このように、交渉分野が広くなっていることも、交渉を進みにくくさせている。
それゆえ、WTOが貿易を一層推進していくためには、このような要因を考慮して対応していかなければならない。
注(1)最恵国待遇とは、すべての加盟国に平等な待遇を与えることである。そして、内国民待遇とは、自国企業より不利に扱ってはならないことである。
(3)FTAによる自由化の進展
90年代後半に、FTAが急増している要因は、次のものが挙げられる。
a.WTOの迅速な合意形成が困難である。
b.利益を共有する国同士が、自由化の利益を先取りする動きが生じている。
最近のFTAの新しい流れとして、関税の撤廃などの伝統的な貿易自由化だけでなく、投資、競争政策、知的財産、政府調達、人の移動の円滑化、電子商取引、環境、労働関連制度の調和等にまで、協定の対象が拡大している。
しかし、FTAが手放しでよいものではなく、最大のポイントはWTOの理念が維持できるかどうかである。すなわち、多角的自由化の維持・強化につながるかどうかである。FTAを推進するには、これに十分配慮することが重要である。