インフォーメーション・サービ150:世界経済事情W(中国の社会主義市場経済)


W 中国の社会主義市場経済

要約:中・東欧諸国の改革が、政治改革から始まり急進的な改革が行われたのに対し、中国は、改革が経済改革から始まり、漸進的に行われてきた。93年3月の全国人民代表大会で、「社会主義市場経済」が憲法に盛り込まれ、「改革・開放路線」が強化された。

 低賃金やWTO加盟などにより、2002年に世界一位の受入国となった直接投資の増加や、日米に取り第一位の輸入相手国となった輸出の増加などにより、毎年高成長を達成しており、過去10年の平均成長率は10%程度である。

1 1990年代の中国経済

 実質GDP成長率は、直接投資の受け入れなどにより、92〜95年まで二桁の成長であった。しかし、消費者物価上昇率が高くなり、93年以降引き締め政策が行われ、96年以降消費者物価上昇率は抑制された。一方で、成長率は高く維持され、結局、90年代の平均成長率は、9.7%であった。

2 2007年の中国景気、過熱収まらず

 中国の07年の国内総生産(GDP)成長率は、13.0%ときわめて高い水準であった。当局による再三の金融引き締め策にかかわらず、依然加熱傾向が続いている。持続可能な発展に向け、中国政府は今後も難しい舵取りが迫られる。

 中国は、07年、銀行からの貸し出し、固定資産投資、貿易黒字を景気過熱につながる「三つの過剰」と位置づけた。最初の二つを抑制するため、今年に入り金利を5回、預金準備率を8回にわたり引き上げた。しかし、1〜9月の固定資産投資は前年同期比25.7%増と、旺盛な伸びが続いている。貿易黒字対策でも、輸出企業への優遇措置の撤廃などを打ち出しているが、1〜9月の貿易黒字は前年同期比で7割近い伸びを示している。

 一部では、資産バブルといえる現象も表れている。今年1〜9月のマンションの値上がり率は北京で10.1%となった。上海株式市場では、総合指数が年初に比べ2倍、2年前に比べ5倍に達した。投資目的の需要も不動産価格を押し上げている。資産バブルの原因は、輸出で大量のマネーが流れ込み、金余り現象となっていることだ。これが、不動産や株のほか、銀行貸し出しを通じて固定資産投資にも流れる。投資が中国の生産能力を増強させ、輸出がさらに拡大するという悪循環が続いている。

 党大会でも、投資・輸出牽引型の成長から、消費・投資・輸出牽引型にしていくとの方針が示された。しかし、個人消費の伸び率はで16.0%と、固定資産投資の伸び率2を下回る。設備投資で増える生産能力の受け皿には力不足だ。

3 2008年の中国経済

 08年の実質GDP成長率は、9.0%と一ケタ台の伸びとなり、景気は減速している。特に、10〜12月期は前年同期比6.8%で景気の減速がいっそう鮮明になった。その要因として、次のものが挙げられる。

1.世界経済の減速や、08年前半までの輸出抑制策の影響による輸出の減速(11月には単月で減少)

2.5月の四川大地震などの大きな災害や

3.8月のオリンピック開催に伴う大気汚染浄化のための工場の操業制限による生産の鈍化

 一方で、内需は比較的堅調に推移しており、固定資産投資(政府部門を含む)は、前年同期比26.8%増となった。

 こうした中で、政府は、経済運営の方針を、経済の加熱防止から経済の穏やかで比較的速い成長の維持へと転換し、08年11月には、内需拡大のための10項目の措置(10年末まで概算で4兆元(GDP比約16%)の投資規模)を発表した。その一環として、08年10〜12月中に総額4,000億元の投資が行われた。

 金融政策についても、08年前半までは引き締め政策が採られてきたが、11月に過度に緩和した金融政策に転換する方針が打ち出された。貸し出し基準金利は、9月の6年7ヶ月ぶりの引き下げを始めとした合計4回の引き下げにより、7.47%から5.58%になっている。預金準備率も3回引き下げられている。

4 貿易摩擦による人民元引上げ

(1)経済・通貨統合への最終段階に向けた動き

  輸出は年々増加し、2004年には日本とアメリカにとり、中国は最大の輸入相手国であった。特に、アメリカにとって中国は最大の貿易赤字相手国である。そのため、アメリカは、人民元の為替レートの引上げを迫っていた。その結果、中国政府は、2005年7月に、ついに人民元の2%引上げを決定した。しかし、小幅な引上げであったため、その後もアメリカの人民元引上げの圧力は継続している。

 05年7月に、人民元の対ドルレートが約2%切り上げられてから3年以上が経った。この間、ドルに対する人民元レートの上昇ベースは、徐々に加速しつつある。一方で、中国の貿易黒字は拡大を続けており、対中貿易の巨額の赤字に苦しむアメリカからは、いら立ちも見える。

 人民元は、増加基調で推移してきたが、08年7月半ば以降ほぼ横ばいの動きとなった後、12月初めはやや減価し、08年12月10日時点では6.8633元/ドルとなり、08年年初比5.9%の増加となった。なお、08年12月に行われた中央経済工作会議では、来年度の経済運営の方針として、人民元為替レートが合理的でバランスが取れた水準における基本的な安定を維持するとの言及がなされている。

5 2001年にWTO加盟

  WTO協定は、最恵国待遇(すべての加盟国への平等な待遇)と内国民待遇(加盟国を自国より不利に扱ってはならない待遇)を原則とし、外国のモノ、人、企業の差別を禁止している。それゆえ、中国の市場経済の機能と透明性を強める役割を果たしている。

協定の主な内容

a.全品目の単純平均の関税率を、98年の17.5%から2010年には9.8%へ引下げる。

b.農産物は、同時期に22.7%から15.0%に引下げる。

c.IT関連製品は、関税率を2025年頃には最終的に0%にする予定である。

d.農産物の補助金の上限を、加盟後は農業生産額の8.5%とする。

e.銀行、保険、流通、電気通信は、外資規制の削減、撤廃の方向とする。

6 伸びる中国への直接投資

 中国の高成長を支えているのは、直接投資の拡大である。特に、WTO加盟が中国への直接投資を加速した。2001年以降、景気後退により世界の直接投資が減少したにもかかわらず、中国への直接投資は増加を続けた。2002年に、中国の直接投資実行額は、500億ドルを超え、アメリカを上回る世界一の直接投資受け入れ国となっている。

 この海外からの直接投資の増加が、中国の経済成長を大きく促進している。2001年の鉱工業生産額に占める外資系企業の比率は、28.5%に上っている。特に、電子通信機器の外資系企業の生産比率は74%も占めている。

 また、外資系企業の雇用機会の創出も大きなものがあり、外資系企業の従業員は、2001年末には671万人に上っている。

7 地域格差の発生

 高成長を達成してきた中国であるが、一人当たりGDPで約13倍という地域間格差が発生している。2001年の一人当たりGDPは、上海市では34,547元であるが、貴州省はこの約13分の1である。また、2004年には、都市住民の所得は、農民の所得の3.2倍である。

 2005年の全人代(国会)において、温家宝総理は、この問題解消のため、畜産税は全面免除、5年以内に廃止が予定されていた農業税(平常作柄の一年の収穫高により課税される国税)の廃止時期を3年以内に短縮するとした。財政赤字を抱える中でこのような措置を打ち出すのは、農業重視の姿勢を示したものといえる。