インフォーメーション・サービ150:世界経済事情V(欧州連合[EU]経済)


V 欧州連合[EU]経済

 要約:EU経済は、2001年に世界的景気後退の中で成長が減速し、久しぶりの低成長となり、2002〜2003年も景気は減速した。2004年は、景気回復したが国によりばらつきがあった。2005〜07年も景気は着実な回復をしており、インフレへの警戒のため利上げが行われた。

 しかし、サブプライム住宅ローンに端を発する世界的景気後退により、08年は景気後退となった。

1 93年欧州連合(EU)が発足

 参加15カ国の国民投票による批准により、欧州連合条約(マーストリヒト条約)が発効し、ヨーロッパ共同体(EC)の市場統合を、経済・通貨同盟および政治統合へと発展させる欧州連合(EU)が発足した。現在は、加盟国は27カ国である。

注:当初のEU参加15カ国は、ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマーク、スウェーデン、フィンランド、オーストリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイルランドである。

2 08年のユーロ圏(EU加盟国のうち、統合通貨ユーロを使用している15カ国)

 サブプライムローン問題による国際的な金融市場の混乱により、ユーロ圏の景気は減速していたが、08年4〜6月期、7〜9月期と2四半期連続で実質GDP成長率が前期比マイナスとなり、景気は後退局面にあることは確認された。その背景としては、住宅バブルの崩壊、消費の冷え込み、輸出の減速などが上げられる。特に、9月半ば以降の世界的な金融危機以降は、信用収縮や世界的な需要の冷え込みにより、景気は一段と悪化している。

 この中で、企業は投資を手控え、製造業では減産の動きが広がっている。低下が続いていた失業率は、08年は上昇傾向にあり、悪化に転じている。通貨ユーロは、9月の金融危機後は主要通貨に対し減価し、年初から約5%減価している。

3 雇用情勢

 EU全体の失業率は、他の先進諸国に比べて高水準である。欧州委員会によると、若年層や長期の失業者が増加している。これは、新産業分野に適した人材が確保できないことや、高福祉のため、高い失業保険給付が失業者の就業意欲を低下させていることや、年金保険料の負担など企業にとり未熟練労働者の労働費用が高いためである。

 様々な雇用政策が行われたが、イギリスを除き雇用情勢は厳しい。一方で、高福祉を削減したイギリスは、ユーロ圏に比べ堅調な成長を保ってきており、2008年の失業率もユーロ圏の7.5%に対し、2.8%の低水準である。

 しかし、08年半ばからの景気後退により、2008年に、欧州連合(EU)加盟27カ国の失業者数が、110万人以上増えた模様だ。スペインを筆頭にフランス、イギリスなどで失業増が鮮明になっており、主要国で唯一減少基調であったドイツも09年は増加に転じる見通しだ。アメリカも08年に戦後最悪の雇用減を記録するなど、失業問題は世界的に深刻さを増しており、各国で追加の景気対策などを求める声が高まるのは必至だ。

 EU統計局によると、加盟国全体の失業者数は、08年11月時点で1,746万人と前年同月比113万人増えた。リーマン・ブラザーズが破綻した9月以降、欧州でも雇用不安が加速しており、10月に失業者は1,700万人を突破した。12月は一段と悪化し、08年通年の失業増は、120万人を超えたと見られる。

 欧州は、日米に比べ労働者保護が手厚く、失業しても失業給付などで当面の生活には大きな支障が出ない例が多い。しかし、各国とも財政悪化により社会保障の給付抑制などに舵を切り始めてた。

 アメリカでは、昨年非農業部門の雇用者数が258万9千人減と、大戦終了時の1945年に次ぐ大幅な減少となった。民間の雇用吸収力が衰える中で、オバマ次期政権の景気対策に期待感が台頭している。欧州でも雇用対策が政策上の焦点になってくると見られ、政府頼みの様相が鮮明になってきた。

4 単一通貨ユーロの導入

(1)経済・通貨統合への最終段階に向けた動き

 ユーロ導入前に、ユーロの導入のための基準達成へ各国の取り組みが行われた。基準とは、財政赤字の対GDP比が3.0%以下、債務残高の対GDP比が60%以下、低いほうから3カ国平均の消費者物価上昇率+1.5%以内の消費者物価上昇率であることなどである。

 また、96年の欧州理事会で、「安定と成長の協定」が合意され、ユーロの信頼性確保のため、参加国の財政赤字が対GDP比で3%を超えると、2年以内に是正されない場合は、最高で対GDP比の0.5%の制裁金が科されることなどが規定された。

(2)欧州中央銀行(ECB)

 ECBは、98年6月に発足し、ユーロ導入後は、参加国全体の金融政策を行う。ECBの金融政策は、政策委員会により決定され、政策委員会のメンバーは、ECBの役員と参加国の中央銀行総裁である。

(3)欧州、同時に大幅利下げ

 欧州の中央銀行が、08年12月に相次いで政策金利を大幅に引き下げた。欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ導入以来最大の0.75%の引き下げで、政策金利を2.5%とした。英イングランド銀行は1.0%引き下げ、政策金利を2.0%とした。域内の中央銀行が同時利下げを実施するのは、3ヶ月連続だ。インフレ懸念が大幅に後退したことから、大型の財政出動を本格化した各国政府と足並みをそろえ、景気を下支えする。

 世界的な景気減速でエネルギー価格が下落したことも、ECBの利下げを後押しした。ユーロ圏の11月の消費者物価指数は前月比で2.1%と、前月に比べ1.1%低下し、インフレ圧力が弱まった。ユーロ圏よりも景気の冷え込みが目立つイギリスでは、政策金利が2.0%となり57年ぶりの過去最低水準を記録した。1694年の創設以来の最低水準に並んだ。イギリスでは、企業向け貸し出しが滞る懸念が強まっている。異例の低金利政策で、金融サービスの機能回復を目指す。

 ECBとイングランド銀行は、10月にFRBと協調利下げを実施した。11月には、スイス国立銀行など欧州の中央銀行と同時利下げに踏み切った。3ヶ月連続の金融緩和で、欧州の各国中央銀行は、金融市場の不安心理の払拭を図る。

(4)欧州、0.5%利下げ

 欧州中央銀行(ECB)は、1月にユーロ圏16J国に適用する政策金利を0.5%下げ過去最低の年2%にすることを決めた。トリシェ総裁は、「経済の先行きは弱まっている」としたうえで、「インフレ圧力が引き続き弱まっている」と説明し、一段の利下げに踏み切る可能性をにじませた。

 ECBは、昨年12月上旬に過去最大幅となる0.75%の利下げを決めたばかりだ。しかし、12月の消費者物価上昇率が年1.6%と政策目標の2%未満を下回り、域内最大の経済力を持つドイツが、08年10〜12月期に大幅なマイナス成長を記録した公算が大きくなったため、追加緩和に踏み切った。利下げは4ヶ月連続で、政策金利はこれにより欧州景気が落ち込んだ03〜05年の通貨統合後の最低水準に並ぶ。

 既にゼロ金利政策に踏み込んだスイスなどに続き、ECBも歴史的な低水準で欧州景気を支える姿勢を鮮明にする。

5 EU加盟国の財政赤字

 ポルトガルは、2001年に財政赤字が対GDP比で4.1%になり、義務付けられている上限の3%を上回った。また、2002年に、ドイツの財政赤字が対GDP比、で3.7%と上限を上回った。両国とも、EU財務相理事会から是正勧告を受けている。フランスも、2002年に財政赤字の対GDP比が3.1%と3%を上回り、是正勧告を受けている。ドイツ、フランス両国とも、2004年まで3年連続で3%を突破した。両国の「安定と成長の協定」違反に対し、EUの最高意思決定機関である欧州理事会は、事実上容認し、制裁手続きを停止した。大国の論理が強く反映された決定であり、同協定が形骸化された。

 2005年に、3%の遵守規準は残されたが、独仏などの大国の要請が認められ、同規準は従来より緩和された内容となった。すなわち、政府財政赤字の対GDP比が3%を超えても、小幅かつ一時的な場合に、経済成長がマイナスないし潜在成長率以下の成長率が長引くならば、過剰財政赤字とはみなさないこととした。また、年金制度改革、研究開発、欧州統合のための財政支出の一部を赤字の対象から外すことができるとした。

 ECBを初め、金融界からは財政規律の緩みを警戒する声が相次いでいる。

6 EUの東方拡大

 EUは、2004年5月に東欧の10カ国が加盟し、25ヶ国となった。これにより,人口は約2割増の4億6千万人に増加したが、GDPの規模は4.6%増となったにすぎない(2001年の推計)。新規加盟国の一人当たりGDPは、拡大以前の15カ国平均の半分弱に過ぎない。

 現在のEU域内でも、経済格差は小さくなる傾向にあり、この10カ国の加盟も、長期的に格差は平準化していくことが予想される。

 この拡大したEUを効率的に運営するために、欧州理事会は新基本条約であるEU憲法を採択した。EUの発言力強化を意図し、効率性を保証するため、様々な機構改革が盛り込まれた。大統領や外相の新設などは、EUに顔を与え求心力を強める意図が見られる。

 しかし、EU憲法は、05年半ばにフランス、オランダ両国の国民投票で否決された。EUの中枢的な両国の否決は、さらなる加盟国増加に否定的であるという意味を持つ。イギリスも、この状況の下で、EU憲法の批准手続きを凍結した。このため、06年秋予定のEU憲法発効は見送られた。

注:加盟10カ国は、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、キプロス、エストニア、ラトビア、リトアニア、マルタである。