インフォーメーション・サービ149:世界経済事情U(アメリカ経済)


U アメリカ経済

要約:1991年4月からのアメリカの景気拡大は、約10年にわたり戦後最長の景気拡大であった。近年は、高成長が続き、2000年も高い成長であった。しかし、2000年後半から景気は減速し、2001年3月から景気後退となった。世界経済に占める比率の高いアメリカの後退は、世界経済に大きな影響を及ぼしたのであった。

 2002年からは、アメリカの景気は回復基調となり、イラク情勢による緊迫化もあったが、2003年後半から2006年にかけ、力強い回復となった。

 サブプライムローン問題により、アメリカ経済は07年12月から6年ぶりの景気後退となった。

1 1991年4月からの約10年の最長の景気拡大

 近年は、IT関連製品が成長を押し上げた。また、民間投資と個人消費の伸びによるところも大きかった。

2 2000年後半からの景気減速と回復

 2000年後半からITの飽和状態により景気は減速し、2001年から景気後退となった。しかし、02年から景気は回復した。2004年は、前年の景気拡大が続き、実質GDP成長率は前年比4.2%増となり、99年の4.5%以来の5年ぶりの高い成長率であった。2005年に入っても堅調に成長を続け、3.5%の成長率であった。失業率が前年の5.5%から5.1%へ低下し、雇用・所得環境が良好であったこともあり、個人消費が3.6%増加し、景気拡大は続いている。

 このような拡大を背景に、FRBは、04年6月から06年5月まで、16回 連続の利上げを実施した。景気過熱やインフレを抑えるためであった。

3 住宅市場の加熱と衰退

 この景気拡大過程の中で、懸念されたのが住宅市場の過熱である。ITバブル崩壊時にも、住宅投資は拡大しており、02年以降一貫して増加してきた。それとともに、住宅価格も大幅に上昇し、04〜05年には二ケタの上昇率であった。しかし、金利の上昇により、05年半ば以降住宅価格上昇率の鈍化が見られ、住宅市場はピークを過ぎた兆しを見せた。

4 米、昨年12月から景気後退

 アメリカの景気循環の山と谷の時点を決める全米経済研究所(NBER)が、昨年12月からの景気後退局面入りを認めた。08年はじめから雇用の不振が先行し、深刻化した金融危機が追い打ちをかけた。現在も雇用の大幅減と、金融不安の負の連鎖は止まらない。来年以降、いつ景気が反転するかは不透明だ。

 90年と01年に始まった直近の二回の景気後退は、いずれも8ヶ月だった。今回は、金融危機の深まりと経済活動の縮小が併発している点が特に深刻だ。雇用や所得の不振から、景気後退があと半年続く可能性が高いという意見もある。今回と比較の対象となるのは、16ヶ月にわたった73年と81年を始点とする二回の景気後退だ。ともに、石油危機を伴った。それ以上となると、29年の世界恐慌時の43ヶ月までさかのぼる。

 本来は景気後退に遅れて反応するとされる雇用の指標は、今回景気後退とほぼ足並みをそろえて悪化した。失業率も、15年ぶりの高水準となる6.8%が見込まれる。

  企業の動向は、業種を問わず暗いニュースが続く。中でも、5万人を超す人員削減に動くシティグループなど金融業は厳しい。9月末で破綻の懸念のある問題銀行は、全米で171あり、10月より5割近く増えた。不良債権を生む悪循環の根にある住宅の値下がりが止まらないためだ。

 景気後退は、第二次大戦後最長となる2年も視野に入っている。

5 米、事実上ゼロ金利

 アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、07年9月以降利下げを続けてきたが、08年12月に連邦公開市場委員会(FOMC)で、最重要の政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を、現在の年1.0%から大幅に引き下げ、年0.0〜0.25%にすることを全会一致で決定し、即日実施した。アメリカとして史上初のゼロ金利政策に踏み込む。同時に、長期国債の買い入れ検討も表明した。市場への資金供給量の拡大を金融政策の柱とする量的緩和の導入を正式に決めた。

 日米金利の 逆転を受け、円相場は一時1ドル=88円63戦まで上昇した。

 金融不安と景気後退が連鎖するグローバル危機の克服に向け、アメリカ金融政策は未踏の領域に入った。FF金利の誘導目標は,日銀の政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標(年0.3%前後)を下回った。日米の政策金利の逆転は、約16年ぶりだ。FRBがFF金利の誘導目標に幅を持たせたのは、始めてである。ゼロ金利が近づき、FF金利を一定水準に厳密に日々誘導するのが困難になったと見られる。

 FOMCの声明では、長期国債の買い入れについても、本格的に視野に入れていることを明らかにした。これは、長期金利の低下要因となる。また、来年始めから自動車ローンや中小企業向けローンなどを裏づけとする 

 資産担保証券(ABS)を担保とする融資を始めることも改めて表明した。金融機関が融資に慎重となる信用収

 FRBの利下げは、昨年9月以降10回目だ。民間金融機関向けの貸出金利の公定歩合は、0.75%下げ、年0.5%とした。

6 10〜12月期実質GDP成長率マイナス3.8%成長

 アメリカ商務省によると、昨年10〜12月期の実質国内総生産(GDP)速報値は,前期比年率換算で3.8%減少し27年ぶりの大幅な落ち込みとなった。前期の0.5%減に続き、2期連続のマイナス成長となった。経済情勢悪化は年明け以降も続いており、アメリカの景気後退は戦後最長のものになる可能性が高まってきた。オバマ大統領は、景気の深刻化のため、議会で審議中の景気対策の早期成立を訴えた。

 08年の実質成長率は1.2%で、01年の0.8%以来7年ぶりの低水準となった。ただ、年間でのマイナス成長は回避した。

 前期に17年ぶりに減少した個人消費は3.5%減で、マイナス幅は前期より0.3ポイント小さかったが依然として大幅な縮小だ。民間設備投資は19.1%減と、急速に悪化した。民間住宅投資は23.6%減と大幅に低下した。ここ数四半期は輸出が成長を支えていたが、今期の輸出は19.7%減と35年ぶりの減少幅となった。このような中で、1.9%増の政府支出が需要を下支えしている格好だ。

 GDPデフレーターはマイナス0.3%となり、デフレ懸念を印象付けた。09年に入っても、大規模なレイオフ(一時解雇)が続いている。戦後最長の景気後退は、73年11月からと81年7月からの2回で、1年4ヶ月続いた。今回は、戦後最長の景気後退となる公算が大きい。

7 アメリカ雇用、戦後最悪の減少

 アメリカ労働省が発表した08年12月の雇用統計によると、失業率は7.2%と前月から0.4ポイント上昇、約16年ぶりの高水準である。同月の非農業部門の雇用者数は前月比52万4千人減り、11月(58万4千人)に続く大幅減である。08年は、年間ベースで258万9千人減で、第二次大戦が終った1945年(275万人減)に次ぐ大幅な減少だった。金融危機で深刻化した実体経済の落ち込みで、雇用の収縮も戦後最悪の情勢になってきた。

 08年の雇用者数の4分の3は、9月以降の4ヶ月間に集中した。リーマン・ブラザーズの破綻を機にした金融危機が、貸し渋りなどの形で企業や家計に波及した。レイオフ(一時解雇)に踏み切る企業が急増したためだ。

8 財政収支の状況

(1) 98年度には、景気拡大による税収の大幅増と政府支出抑制により、29年振りに約692億ドルの黒字に転じた。99〜2001年度も1,000億ドルを超える黒字が続き、特に、2000年度は約2,370億ドルの大幅な黒字であった。

(2) 2001年6月に、ブッシュ大統領は、財政黒字を家計に還元する大型減税を決定した。また、9月の同時多発テロのための緊急歳出や国防費の膨張、航空業界への支援策、そして税収の減少もあり、2002年度には財政収支は1,578億ドルの赤字になった。97年度以来の財政赤字であった。これ以降、イラク戦争もあり財政赤字が続いている

(3)08年度(07年10月〜08年9月)の財政赤字は、4364億ドルと過去最大となった。これは、景気後退による税収減や、対テロ戦費の増大に加え、緊急経済対策法による減税が影響している。09年度については、金融危機への歳出などから、10.11月の2ヶ月間ですでに累計赤字額が4016億ドルに上り、早くも08年度の赤字額に迫っている。

 9 経常収支赤字

(1) 経常収支赤字は、ドル安などにより88年以降減少したが、92年以降反転し拡大傾向にある。アメリカの経常収支赤字拡大は、貿易赤字が主な要因で、輸入が輸出以上に増加するためである。輸入の増加は、好景気による。         

(2) 2002年〜2006年の経常収支赤字は、景気回復による輸入の増加のため拡大し、5年連続で過去最大となった。経常収支赤字の約9割は、対中国、対日本などの貿易赤字が占める。輸出が伸び悩む一方で、過剰な個人消費や原油高で輸入が増えているためである。

(3)2007年の経常収支赤字は、景気後退のため輸入が減少し、7312億ドルへと減少した。

(4) 巨額の経常収支赤字は、世界からのアメリカ国債などの証券投資によりファイナンスされていて、その結果、長期金利は低水準で安定し、住宅投資や個人消費の伸びを支え、経済成長を支えている。もし、海外マネーの流入が止まれば、景気の減速は必至であり、赤字の解消が望まれる。