インフォーメーション・サービ146:2009年度対策 経済事情X(金融市場)


X 金融市場

要約:91年以降は、一貫して金融緩和局面であった。99年2月以降と2001年4月以降の2回にわたり、無担保コールレート(翌日物)がゼロ水準に引下げられ、さらに潤沢な資金供給である量的金融緩和が行われてきた。しかし、景気拡大やプラスの消費者物価上昇率により、06年3月に量的緩和政策が解除され、7月にゼロ金利が解除され0.25%となった。さらに、07年2月に0.50%に引き上げられた。

 サブプライムローン問題は、世界の金融機関に損失をもたらしており、損失は確定せず拡大懸念がくすぶっている。このため、世界経済は景気後退となり、わが国も07年11月以降景気後退となり、08年11月と12月に二度無担保コールレート(翌日物)が引き下げられ0.1%となった。

1 超低金利の金融市場

(1)95〜96年度に、駆け込み需要もあり、3〜4%の成長となり景気は完全に立ち直ったかに見えたが、消費税引き上げ、金融危機、アジア危機などにより、97年度以降景気後退となり、99年2月から、日本銀行が、無担保コールレート(翌日物)を実質ゼロ水準に維持する資金供給を、2000年7月まで行った。

(2)2001年に景気後退に入ったため、2〜3月と2回公定歩合が引下げられ、0.25%となり、同時多発テロによる景気後退懸念により、9月に公定歩合は0.1%となった。また、日銀の国債買いオペなどによる潤沢な資金供給により、4月から再び無担保コールレート(翌日物)をゼロ金利とした。

(3)公定歩合も金利も下限に達し、日銀がさらに行った政策は、潤沢な資金供給すなわち量的緩和政策であった。それは、日銀当座預金残高目標と長期国債買い入れ額の引き上げであった。双方とも徐々に引き上げられ、前者は、2004年2月に30〜35兆円程度となり、後者は、2002年10月に月1兆2,000億円程度となった。

 量的緩和政策は、金融機関への不安感が強かった時期に、金融機関が資金需要に応じることにより金融市場の安定や金融緩和策を維持する効果があった。さらに、再びデフレに戻らないと確認できるまでは、継続することにした。

(4)2005年に景気拡大が本格化し、量的緩和政策の解除に向け追い風が吹いていた。量的緩政策の解除とは、金融調節の指標を、現在の日銀当座預金残高から金利に戻すことである。解除する条件として、日銀は次の条件を挙げていた。 a.消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率が、数ヶ月以上安定的にゼロ以上となる。

b.日銀政策委員の多くが、今後の消費者物価指数(CPI)上昇率が0%を超える見通しを持つ。

c.景気や物価を総合的に判断する。

 日銀は、この3条件が満たされたとして、06年3月に量的緩和政策の解除を決め実施した。貨幣の量を増やして経済をテコ入れする異例の金融政策は終わり、金利を上げ下げする本来の手法に戻ったのである。このように引締め政策に転じたのは、2000年8月のゼロ金利解除を除くと、90年8月以来約15年ぶりとなる。

 その後、日銀は、7月の金融経済月報で景気の総合判断を「緩やかに拡大している」に上方修正した。「拡大」の表現は14年ぶりであった。この時点で、景気も戦後最長の景気拡大に迫っていた。日銀は、ゼロ金利を維持し続けると、経済・物価が大きく変動する可能性があるとして、7月の政策委員会・金融政策決定会合でゼロ金利政策の解除を全員一致で決めた。

 ほぼゼロ%としてきた無担保コールレート翌日物の誘導目標を、即日年0.25%に引上げた。そして、その後も低金利を維持し、景気の足を引っ張らないようにする方針である。

(5)日本銀行が5年以上続けたゼロ金利を06年7月に解除してから、預金金利や住宅ローン金利、企業向け貸出金利など、さまざまな金利がじりじりと上昇し、家計や企業にも金利復活が浸透してきた。

 ゼロ金利解除は、異例の超低金利政策から脱し、金利の上げ下げで景気をコントロールする本来の金融政策を取り戻すことが狙いだった。日銀は、短期金利の誘導目標を06年7月にほぼ0%から年0.25%にし、さらに07年2月に年0.5%まで引き上げた。

 解除から1年が経過し、預金やローンなど各種金利は次第に上昇し、解除直前の06年7月に年0.001%だった普通預金の平均金利は、07年3月に0.196%まで上昇し、95年5月の水準を回復した。定期預金の金利も上昇しており、りそな銀行のスーパー定期では、1年物の金利は06年7月の年0.08%から07年3月に年0.35%へと大きく上昇した。

 家計には金利収入が増える反面、住宅ローンの金利上昇などで負担感もある。3大銀行の住宅ローン金利は、一斉に引き上げられた。企業向け貸出金利も上昇傾向にあるが、2極化している。代表的な短期プライムレート(貸出期間1年未満)は、主要行の平均で見ると、昨年7月の年1.375%から年1.875%まで上昇した。ただ、輸出関連などで業績が好調な企業では、銀行間の奪い合いのため、1%未満で貸している銀行もある状況となっている。一方、業績不振が目立つ地方の零細企業には、3%を上回るケースもあり、金利の引き上げ交渉に応じない企業には銀行が融資を引き揚げることもあるという。

 日銀は2000年8月にもゼロ金利解除を断行したが、その後景気失速となり再びゼロ金利に戻すという失態を演じた。そのため、06年の解除以降の景気への影響を最も懸念していた。しかし、緩やかな景気拡大を続けており、目立った懸念は出ていない。

 しかし、5月に4ヶ月連続で消費者物価指数が前年同期比でマイナスとなるなど、完全なデフレ脱却には至っていない。もう少し待てば物価も安定し景気回復もはっきりしたはずで、ゼロ金利解除は早すぎたとの批判もある。

(6)日銀は、08年11月1日に政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を年0.5%程度から年0.3%程度に引き下げた。八人の政策委員の賛否が同数となり、白川総裁が議長権限で決定した。

 日銀が利下げした理由は、金融危機が消費や生産にも影響を与えるようになり、株価が急落し、円高が大きく進み、景気下支えと市場安定化のためだ。

 10月8日には、欧米が協調利下げをした。しかし、日銀は、政策金利が年0.5%程度と低水 準だったこともあり、利下げには慎重だった。しかし、アメリカの大手証券のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、欧米で信用不安が深刻になり、国内の株式市場に影響が広がり、日銀はこのまま放置できないと考え、利下げした。

 政府の追加経済対策も10月30日に発表され、財政と金融が歩調を合わせた格好だ。欧米と金融政策で協調する姿勢を示したことになる。ただ、企業の設備投資意欲を刺激したり、消費を拡大する効果は不透明とみられている。

(7)日銀は、08年12月18日に金融政策決定会合で、政策金利を年0.3%から0.1%に引き下げることを決めた。利下げは、2ヶ月ぶりである。同時に、コマーシャルペーパー(CP)の買い取りや長期国債の買い入れ増額など、資金供給拡充策も決めた。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が、事実上のゼロ金利に踏み込んだことも、日銀の決断を後押ししたと見られる。

 日銀は、景気については「悪化している」との認識を示し、従来の「停滞色が強まっている」との判断を下方修正した。先行きも「当面厳しさを増す可能性がある」と警戒を強めた。

 企業の資金繰り不安を抑えるため、追加的な資金供給策も決定した。企業が短期資金の調達に使うCPの買い取りを時限的に実施するほか、長期国債の買い入れ額を月1兆2,000億円から1兆4,000億円に増やす。金融機関に、潤沢に資金供給を増やす仕組みだ。

 日銀が、15日に発表した企業短期経済観測調査(短観)で、企業の景況感が大幅に悪化した。そして、16日にはFRBが政策金利を0〜0.25%に引き下げると共に、量的緩和策の採用と異例の政策に踏み出した。

 日米の政策金利が16年ぶりに逆転したのを受け、円高・ドル安が進み、約13年ぶりに1ドル=87円台をつけた。金利据え置きのままでは、日本経済への向かい風がさらに強まり、株価の重しとなっていた。

2 サブプライムローン問題

(1)サブプライムローンの焦げ付き問題の影響が、日本の金融機関にもジワリと広がっている。みずほフィナンシャルグループが、08年3月期決算の連結税引き後利益を1,000億円下方修正するなど、邦銀も影響はないという見通しの修正を迫られてきた。国内金融機関のサブプライム関連の損失計上額は、判明しただけで3,000億円を超えた。損失は、さらに拡大する恐れもある。

 邦銀は格付けの高い商品を中心に投資してきたが、高格付けのものであっても格下げが相次いだ。相対取引であるサブプライム関連商品では、ほとんど買い手がつかなくなり価格が暴落した。三井住友フィナンシャルグループも、9月中間期に約320億円の損失計上を迫られる。さらに被害は、地方銀行や信用金庫の一部、あいおい損害保険にまで波及している。

 海外では、アメリカのシティグループが2兆円近い損失を計上する見通しとなるなど、有力な欧米銀行・証券会社が相次いで巨額損失を計上している。アメリカの大手銀行と証券の9社で、判明した損失額は4兆5,000億円を超えている。

 欧米に比べれば、日本の銀行や証券会社への影響はまだ小さいといえる。福井日銀総裁は、「日本の金融システム全体として不安を考える必要はない」との考えを示した。しかし、市場の混乱はまだ続いており、価格が想定以上に下がらないという保証はない。9月中間決算で約50億円の損失計上にとどまる三菱UFJフィナンシャルグループも、9月末で200億円程度の含み損を抱える。現在の含み損はさらに増えていると見られ、拡大懸念はくすぶっている。

(2)サブプライム損失3,200億円

 みずほフィナンシャルグループなど国内主要7金融機関が抱える損失額が、出揃った。07年9月中間決算の損失額は、計約1,800臆円、08年3月期の損失見込みは、見込みを出した5金融機関だけで最大約3,200億円に達している。

 9月中間決算で計上したサブプライム関連の損失で最も大きかったのは、みずほで、農林中金、三井住友フィナンシャルグループが続いた。08年3月期の損失見通しは、みずほが中間期の約2.4倍、三井住友が約2.7倍と大幅な拡大を見込んでいる。市場の動揺は10月以降も続いており、損失額が今後拡大する可能性は大きい。

 金融庁によると、全国内金融機関が保有するサブプライム関連商品の残高は、9月末で約1兆3,300億円に達し、07年9月中間決算の損失総額は2,260億円となっている。

[大手金融機関のサブプライムローン関連の損失計上額]
金融機関名 07年9月中間期
(億円)
みずほ 700
農林中金 384
三井住友 320
新生 190
住友信託 90
あおぞら 58
三菱UFJ 50
合計 1,782

3 個人金融資産1,535兆円

 日本の個人(家計部門)が持つ金融資産の残高が、07年9月末で1,535兆円と引き続き高水準にあったことが、日本銀行の7〜9月の資金循環統計で分かった。サブプライムローン問題に伴う株価下落の影響で6月末より20兆円減ったものの、残高は過去3番目に多かった。

 内訳を見ると、現金・預金が770兆円で最も多い。ついで、保険・年金準備金405兆円、株式・出資金173兆円、投資信託76兆円、国債や社債などの債券44兆円と続く。

 国民一人当たりの金融資産は、1,200万円になる。一般庶民の実感とかけ離れているのは、負債を差し引いていない上、多くの金融資産を持つ富裕層もいるからだ。総務省の家計調査によると、負債残高を差し引いた純貯蓄額(04年度)は、30歳未満の世帯で53万円、60歳以上の世帯では2,029万円だった。

 個人の金融資産の多様化は、数字の変化から見て取れる。02年末に6.2%だった株式・出資金の構成比は07年9月末で11.3%と倍になり、投資信託も2.1%から5.0%に上昇した。一方、現金・預金の構成比は56.5%から50.2%に低下している。日銀は、貯蓄から投資への流れが読み取れると分析している。

 アメリカと比較すると、日本ではほぼ半分の現金・預金はアメリカでは13%程度だ。逆に、アメリカで3割を超す株式・出資金は日本では1割程度である。