インフォーメーション・サービ141:2009年度対策 経済事情T


T 日本経済の動向

 要約:02年に始まった今回の景気回復は、07年に入っても持続し長期化しているが、人々が景気の長期回復を実感できていないという指摘がある。所得や消費の伸びに鈍化が見られ、企業部門の好調さの家計部門への波及に足踏みが見られる。

 しかし、アメリカのサブプライムローン問題による世界経済の低迷による影響を受け、日本経済は07年11月には景気後退に入ったと見られる。

1 90年代の日本経済の低迷

 90年代は、「失われた10年」ともいわれ、実質GDP成長率も、0%台や1%台の年度が多かった。その背景には、バブル崩壊による資産価格の下落による倒産、銀行の不良債権の累積が挙げられる。90年代の例外としては、96年の3.4%成長である。これは、97年の消費税引き上げ(3%→5%)の駆け込み需要が、大きく働いたのが主な要因であった。

2 最近の日本経済

(1)上がらない賃金

 雇用は改善しているのに賃金が上がらない原因については、パートやアルバイトなどの非正規社員の増加などを列挙した。

 まず、賃金の低い非正規社員の割合が増えているため、一人当たり賃金は、06年から四半期ごとに前年同期比で0.2%程度押し下げられていると試算した。また、高賃金の団塊の世代の大量退職では、60歳以降に働かない場合、全労働者の賃金を06年7〜9月期から四半期ごとに前年同期比で0.2%強、押し下げる要因になる。民間に比べ高かった地方公務員の賃金引下げも、全体の賃金伸び悩みの原因と指摘した。

(2)デフレの現状

 消費者物価指数は、1999年以降2003年まで継続的に下落した。いわゆるデフレである。2004年は0.0%のプラスであったが、2005年は再び前年比マイナス0.3%となり、現在もデフレは終息したとはいえない。

 デフレの主な要因は、財の需給が供給超過であることである。そのほかには、生産性上昇により、単位労働コストが低下したためでもある。<br/>  本格的な物価の上昇には、景気回復による個人消費が拡大し、需要が増える必要がある。現金給与総額は前年比減少している月も多い。賃金の上昇は個人消費の活性化とともに、人件費アップを通じ外食などサービス物価を上昇させる効果もあり、物価を占う意味でも今後の焦点となりそうだ。

 一方、デフレは、地価や株価等の資産価格においても進行している。公示地価は、91年をピークに15年連続下落し、ピーク時に比べほぼ半分になった(東京都区部では、ピーク時に比べ、住宅地が62.6%、商業地は80.1%減になっている)。しかし、07年の公示地価によると、全国平均で住宅地、商業地とも16年ぶりの上昇となった。地方圏では引き続き下落傾向にあるが、三大都市圏の都心部では、上昇率が3割や4割を超える地点が見られる。これは、企業のオフィス需要の増加、不動産投資の拡大、再開発の進捗などが背景として挙げられる。

 国土交通省によると、08年1月1日時点での公示地価は、全国平均(全用途)で前年比1.7%上昇し、2年連続で前年を上回った。根強いオフィス・住宅需要を背景に三大都市圏で大きく上昇し、地方中核都市や大都市周辺にも波及した。ただ、昨年後半から、サブプライムローン問題などの影響が出て、都心部では伸びが鈍った地点が広がっている。

 株式資産額は、最近の株式市場の活況もあり、バブル末期の90年末の株式資産額に比べ、7.9%減に留まっており、地価の下落ほどではなく、資産デフレの一因であった株式については解消されている(05年時点)。

 株価(日経平均株価)は、06年4月には2000年7月以来となる17,000円半ばまで回復した。大きな流れで捉えた場合、03年4月の安値の7,607円を底とした景気回復局面における日本株の上昇トレンドが継続している。

(物価のデフレは、企業の実質債務負担の増加、企業の設備投資の抑制、実質金利の上昇、そして、実質賃金の上昇をもたらす。そして、資産価格のデフレは、バランスシートの悪化、資金調達の困難化による設備投資の抑制、逆資産効果による消費の抑制をもたらす。)

(3)格差の是正

 経済白書(07年)は、各国の格差是正の取り組みとして、課税などによる所得の再分配効果を挙げた。各国とも、税収を年金や医療、生活保護などの社会保障給付に振り向けている。この再分配の割合が高いほど、格差是正に効果が出ているとされる。

 高福祉・高負担の北欧諸国は、再分配率が30%を超え、市場経済型のアメリカは16.7%(2000年)で、日本は02年の統計で23.5%だった。海外の事例を参考に、社会保障給付と所得税の税額控除(納税額から一定額を差し引いて税金の額を軽減)の組み合わせにより、低所得層の労働意欲を高める政策を日本でも検討すべきだと提言した。

 厚生労働省によると、世帯ごとの所得格差の大きさを表す05年のジニ係数が0.5623で、過去最大になった(「05年所得再分配調査」)。同省は、一般的に所得が少ない高齢者世帯の増加が主な要因と見ているが、非正規社員と正規社員の所得格差などが影響している可能性も否定できないとしている。

 同調査は3年ごとに実施されており、ジニ係数は0〜1の間の数字で表され、格差が大きいほど1に近づく。今回の調査では、ジニ係数は前回を0.028上回り、初めて0.5を超えた。例えば、全体の25%の世帯が所得総額の75%を占めた場合に、ジニ係数は0.5となる。

(4)2007年12月の日銀短観、三つの不安、景気ぐらり

 日本銀行が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(12月短観)は、業況判断指数(DI)が大企業・製造業で3四半期ぶりに悪化するなど、景気の足元がぐらつき始めていることを示した。日本経済は、原油高、サブプライムローン問題、改正建築基準法というトリプルパンチに見舞われており、最近の景気指標でも景気の減速傾向が表れはじめた。

 大企業・製造業の業況判断DIが、05年9月以来となるプラス19まで落ち込んだ三つの要因のうち、最も大きいのは原油価格の高騰だ。12月短観の調査期間中(11/12〜12/13)、原油価格は一時1バレル=99ドル超まで上昇した。化学、運輸、電気・ガスなど幅広い業種で景況感が悪化した。高止まりする原油価格は、灯油やガソリン価格の上昇を通じ家計を直撃し始めている。今後、個人消費の減少などに波及すれば、小売り、飲食店・宿泊などのサービス産業にも拡大しかねない。

 建築確認審査を厳しくした改正建築基準法の施行の影響も深刻だ。不動産、建設、その関連産業の景況感は、軒並み悪化した。

 さらに追い討ちを掛けるのが、サブプライム問題だ。欧米の主要中央銀行が、異例の資金供給策を発表したが、市場では抜本改革につながらないとの見方が多い。アメリカへの実体経済への打撃を懸念する見方も出ている。アメリカ経済への減速懸念は、業績が好調な輸出関連業種の間で特に強まっている。これら業種の3ヵ月後の景況感は、大幅に悪化すると予想されている。

(5)景気後退07年11月から

 内閣府は、学識経験者による「景気動向指数研究会」を開き、02年からの景気回復が途切れ、いまの後退局面に転換した「景気の山」を07年10月と判定した。戦後最長の景気回復は69ヶ月で終わり、07年11月から後退局面入りしたことになる。この結果、足元の景気後退がすでに1年以上続いていることが判明した。

 アメリカでは、日本とほぼ同時期の07年12月からの景気後退入りを認定した。ユーロ圏も08年7〜9月期に二・四半期続けてマイナス成長となり、後退局面入りが確実視されており、日米欧の同時後退が明確になった。

 日本の戦後の後退局面は、平均16ヶ月で終わっている。今回の判定で、現在の景気後退が15ヶ月目には入っていることがわかった。09年2月で平均に並ぶと見られ、平均を上回るのはほぼ確実だ。

 先行きの不安材料としては、多くのエコノミストが家計消費の腰折れが成長をした押しするリスクを指摘した。また、雇用減の影響が家計消費に悪影響を与える恐れもある。円高も輸出企業の収益を悪化させるだろう。

 今回の最長景気は、過去の景気と比べ成長率が低いまま終わったのが特徴だ。期間中の実質GDP成長率は平均2.1%だ。86年末からのバブル景気の平均5.4%の半分以下だ。物価が下がるデフレが続き、生活実感に近いとされる名目成長率の平均はわずか0.8%だ。家計には実感なき回復だった。低成長でも戦後最長の景気を支えたのは、企業部門だ。輸出の伸びは平均で10%で、回復期間の成長に対する輸出の貢献度は6割に達した。輸出頼みの回復の構図が鮮明である。これを追い風に企業は設備投資を増やした。円安と日銀がとった超低金利政策も恩恵となり、07年度にかけて過去最高益を計上する企業が相次いだ。

 過去の大型景気に比べ豊かさを感じにくかったことは否定できない。グローバル化で人件費の安い新興国との競争が企業経営者に賃上げをためらわせた。輸出増から賃金増への好循環が起こらなければ、自津的な景気回復にはならない。デフレについても、政府の脱却宣言には至らなかった。

(6)日銀12月短観(08年)ー景況感、34年ぶり悪化幅

 日銀がは発表した12月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がマイナス24となり、6年9ヶ月ぶりの低水準となった。9月の前回調査から21ポイント下がり、第一次石油危機直後の75年2月と並ぶ約34年ぶりの悪化幅となった。金融危機により企業の資金繰りが厳しくなっているほか、雇用や設備にも過剰感が広がっている。

 企業の業況判断指数DIは、景況感が良いと答えた企業の割合から、悪いと答えた企業の割合を引いた値である。大企業製造業のDIの悪化は、五・四半期連続だ。低下幅は、石油危機当時の74年8月の26ポイントに次ぐ、過去二番目の大きさとなった。日銀は、18,19日に金融政策決定会合を開くが、利下げや資金供給などの追加策が必要との声が強まる可能性がある。三ヶ月先の見通しについても、大企業製造業全体は、マイナス36と12ポイント低下する。

 大企業非製造業は、マイナス9と前回調査から10ポイント下がった。指数がマイナスに転じるのは、5年ぶりだ。個人消費の不振で、小売りや飲食店・宿泊などが大きく悪化した。中小企業はさらに厳しく、製造業、非製造業とも、マイナス29に落ち込んだ。

 企業収益の悪化も鮮明になってきた。大企業製造業の08年度売上高見通しは、前年度比0.9%増にとどまり、輸出は1.5%減とITバブルが崩壊した01年度以来、7年ぶりのマイナスを見込む。ただし、この想定為替相場は、1ドル=101円である。現在はより円高になっており、下ぶれリスクは必然的だ。

 金融危機を受け、資金繰りもきつくなっている。金融機関の大企業向けの貸し出し態度は、厳しいとの回答が増え、指数は9年6ヶ月ぶりにマイナスとなった。投資家のリスク回避姿勢も強まっており、コマーシャルペーパー(CP)の発行環境も厳しいとの回答が増えている。
[業況判断指数(DI)の動き]
大企業 製造業 −24(−21)
非製造業 −9(−10)
中堅企業 製造業 −24(−16)
非製造業 −21(−9) 
中小企業 製造業 −29(−12)
非製造業 −29(−5)