インフォーメーション・サービ127:2008年度対策 経済事情 連載 第九回
「中国の社会主義市場経済」
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1 90年代の中国経済
実質GDP成長率は、直接投資の受け入れなどにより、92〜95年まで二桁の成長であった。しかし、消費者物価上昇率が高くなり、93年以降引き締め政策が行われ、96年以降消費者物価上昇率は抑制された。一方で、成長率は高く維持され、結局、90年代の平均成長率は、9.7%であった。
2 中国景気、過熱収まらず
中国の07年7〜9月期の国内総生産(GDP)は、伸び率が前年同期比11.5%と高い水準が続いた。当局による再三の金融引き締め策にかかわらず、依然加熱傾向が続いている。持続可能な発展に向け、中国政府は今後も難しい舵取りが迫られる。
中国は、今年、銀行からの貸し出し、固定資産投資、貿易黒字を景気過熱につながる「三つの過剰」と位置づけた。最初の二つを抑制するため、今年に入り金利を5回、預金準備率を8回にわたり引き上げた。しかし、07年1〜9月の固定資産投資は前年同期比25.7%増と、旺盛な伸びが続いている。貿易黒字対策でも、輸出企業への優遇措置の撤廃などを打ち出しているが、1〜9月の貿易黒字は前年同期比で7割近い伸びを示している。
一部では、資産バブルといえる現象も表れている。今年1〜9月のマンションの値上がり率は北京で10.1%となった。上海株式市場では、総合指数が年初に比べ2倍、2年前に比べ5倍に達した。投資目的の需要も不動産価格を押し上げている。資産バブルの原因は、輸出で大量のマネーが流れ込み、金余り現象となっていることだ。これが、不動産や株のほか、銀行貸し出しを通じて固定資産投資にも流れる。投資が中国の生産能力を増強させ、輸出がさらに拡大するという悪循環が続いている。
党大会でも、投資・輸出牽引型の成長から、消費・投資・輸出牽引型にしていくとの方針が示された。しかし、個人消費の伸び率は1〜9月で15.9%と、固定資産投資の伸び率25.7%を下回る。設備投資で増える生産能力の受け皿には力不足だ。
3 貿易摩擦による人民元引上げ
輸出は年々増加し、2004年には日本とアメリカにとり、中国は最大の輸入相手国であった。特に、アメリカにとっては中国は最大の貿易赤字相手国である。そのため、アメリカは、人民元の為替レートの引上げを迫っていた。その結果、中国政府は、2005年7月に、ついに人民元の2%引上げを決定した。しかし、小幅な引上げであったため、その後もアメリカの人民元引上げの圧力は継続している。
05年7月に人民元の対ドルレートが約2%切り上げられてから2年が経った。この間、ドルに対する人民元レートの上昇ベースは、徐々に加速しつつある。一方で、中国の貿易黒字は拡大を続けており、対中貿易の巨額の赤字に苦しむアメリカからは、いら立ちも見える。
人民元は、07年7月20日は1ドル=7.5712元で、この1年間で約5.2%上昇した。その前の1年間で1.5%程度の上昇であり、上昇ペースは加速している。また、中国人民銀行(中央銀行)は、5月に1日の許容変動幅を基準値の上下0.3%から0.5%程度に広げた。アメリカを始めとする国際社会から為替制度の柔軟化を求められ、中国当局も対応を進めている。
しかし、中国の貿易黒字は、人民元切り上げ後にむしろ急増している。中国の雇用は、繊維など膨大な雇用を抱える労働集約型の輸出産業に支えられている。そのため、中国人民銀行が人民元レートの大幅な上昇を抑えているとの見方が大勢だ。
中国は資本の国内流入を厳しく制限している。しかし、最近は輸出代金に上乗せするなどの形で、海外から不法な投機資金が流入しているといわれる。これは、過剰流動性につながる。これに対して、一度にまとめて切り上げ、資金流入を断ち切ることもありえない選択肢ではない。ただ、中国政府は、これまで意表をつく事態は起きないとして、再度の切り上げを否定している。
一方、アメリカは中国通のポールソン財務長官を全権大使として、中国に改革を促してきた。しかし、中国の動きは鈍く、同長官の手法に議会からは生ぬるいとの批判も出始めている。アメリカは大統領選が近づくと保護主義的な傾向を強めると見られ、巨額の貿易赤字を抱える中国への風当たりはますます強くなりそうだ。
10月24日の上海外国為替市場の人民元相場は、1ドル=7.4926元で終了し、05年の人民元利上げ後、初めて7.4元台となった。人民元の為替レートは、05年7月に約2%切り上げられた後、累計で8%あまり上昇している。
19日に開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の共同声明で、「人民元レート上昇を加速させることが必要」と名指しで指摘されるなど、元切り上げの国際的な圧力が強まっていた。市場では、この日の上昇をG7生命に応えたものと受け止められている。市場では、国家発展改革委員会が15〜20%に人民元切り上げを提案したという未確認情報も流れ、元の先高感が強まっている。
4 2001年にWTO加盟
WTO協定は、最恵国待遇(すべての加盟国への平等な待遇)と内国民待遇(加盟国を自国より不利に扱ってはならない待遇)を原則とし、外国のモノ、人、企業の差別を禁止している。それゆえ、加盟は、中国の市場経済の機能と透明性を強める役割を果たしている。
協定の主な内容
a.全品目の単純平均の関税率を、98年の17.5%から2010年には9.8%へ引下げる。
b.農産物は、同時期に22.7%から15.0%に引下げる。
c.IT関連製品は、関税率を2025年頃には最終的に0%にする予定ある。
d.農産物の補助金の上限を、加盟後は農業生産額の8.5%とする。
e.銀行、保険、流通、電気通信は、外資規制の削減、撤廃の方向とする。
5 伸びる中国への直接投資
中国の高成長を支えているのは、直接投資の拡大である。特に、WTO加盟が中国への直接投資を加速した。2001年以降、景気後退により世界の直接投資が減少したにもかかわらず、中国への直接投資は増加を続けた。2002年に、中国の直接投資実行額は、500億ドルを超え、アメリカを上回る世界一の直接投資受け入れ国となっている。
この海外からの直接投資の増加が、中国の経済成長を大きく促進している。2001年の鉱工業生産額に占める外資系企業の比率は、28.5%に上っている。特に、電子通信機器の外資系企業の生産比率は74%も占めている。
また、外資系企業の雇用機会の創出も大きなものがあり、外資系企業の従業員は、2001年末には671万人に上っている。
6 地域格差の発生
高成長を達成してきた中国であるが、一人当たりGDPで約13倍という地域間格差が発生している。2001年の一人当たりGDPは、上海市では34,547元であるが、貴州省はこの約13分の1である。また、2004年には、都市住民の所得は、農民の所得の3.2倍である。
2005年の全人代(国会)において、温家宝総理は、この問題解消のため、畜産税は全面免除、5年以内に廃止が予定されていた農業税(平常作柄の一年の収穫高により課税される国税)の廃止時期を3年以内に短縮するとした。財政赤字を抱える中でこのような措置を打ち出すのは、農業重視の姿勢を示したものといえる。