インフォーメーション・サービ118:2008年度対策 経済事情 連載 第一回
T 日本経済の動向
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1 90年代の日本経済の低迷
90年代は、「失われた10年」ともいわれ、実質GDP成長率も、0%台や1%台の年度が多かった。その背景には、バブル崩壊による資産価格の下落による倒産、銀行の不良債権の累積が挙げられる。90年代の例外としては、96年の3.4%成長である。これは、97年の消費税引き上げ(3%→5%)の駆け込み需要が、大きく働いたのが主な要因であった。
2 パートタイム労働者比率の増加 上昇の理由
(1)GDP年2.6%増(7〜9月期)、不安山積の景気拡大
7〜9月期の実質GDP成長率は、年率換算で2.6%と2四半期ぶりにプラス成長を確保した。しかし、原油価格の高騰やサブプライムローンの焦げ付き問題などをきっかけとするアメリカ経済の減速懸念など、今後の不安材料は山積している。02年2月から続く戦後最長の景気拡大に暗雲が漂い始めた。
7〜9月期の個人消費は、前期比0.3%増と横ばい圏内にとどまった。消費が伸び悩んでいるのは食料品やガソリンなど生活に密着した品々の価格が上昇しているためだ。賃金の伸び悩みも、消費が振るわない一因だ。7〜9月期の雇用者報酬は、非正規社員の増加などを理由に前期より0.2%減った。
7〜9月期の実質GDPを0.5%押し上げた輸出も不透明だ。サブプライム問題が深刻化した今夏以降、アメリカ経済が減速の兆しを強めているからだ。アメリカの個人消費が低迷すれば、自動車や電機など国内の輸出企業も無傷ではいられない。輸出企業の多くは、アメリカ経済の動向に神経をとがらせている。
7〜9月期の住宅投資は、前期比7.8%減と、97年4〜6月期以来の低水準となった。
(2)12月の日銀短観、三つの不安、景気ぐらり(12/15) ***
日本銀行が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(12月短観)は、業況判断指数(DI)が大企業・製造業で3四半期ぶりに悪化するなど、景気の足元がぐらつき始めていることを示した。日本経済は、原油高、サブプライムローン問題、改正建築基準法というトリプルパンチに見舞われており、最近の景気指標でも景気の減速傾向が表れはじめた。
大企業・製造業の業況判断DIが、05年9月以来となるプラス19まで落ち込んだ三つの要因のうち、最も大きいのは原油価格の高騰だ。12月短観の調査期間中(11/12〜12/13)、原油価格は一時1バレル=99ドル超まで上昇した。化学、運輸、電気・ガスなど幅広い業種で景況感が悪化した。高止まりする原油価格は、灯油やガソリン価格の上昇を通じ家計を直撃し始めている。今後、個人消費の減少などに波及すれば、小売り、飲食店・宿泊などのサービス産業にも拡大しかねない。
建築確認審査を厳しくした改正建築基準法の施行の影響も深刻だ。不動産、建設、その関連産業の景況感は、軒並み悪化した。
さらに追い討ちを掛けるのが、サブプライム問題だ。欧米の主要中央銀行が、異例の資金供給策を発表したが、市場では抜本改革につながらないとの見方が多い。アメリカへの実体経済への打撃を懸念する見方も出ている。アメリカ経済への減速懸念は、業績が好調な輸出関連業種の間で特に強まっている。これら業種の3ヵ月後の景況感は、大幅に悪化すると予想されている。
一方で、日銀は、12月短観でも大企業の設備投資計画や収益計画、雇用などは引き続き堅調だったことから、緩やかな景気拡大が持続しているとの現状判断は変えていない。
(3)デフレの現状
消費者物価指数は、1999年以降2003年まで継続的に下落した。いわゆるデフレである。2004年は0.0%のプラスであったが、2005年は再び前年比マイナス0.3%となり、現在もデフレは終息したとはいえない。
デフレの主な要因は、財の需給が供給超過であることである。そのほかには、生産性上昇により、単位労働コストが低下したためでもある。
本格的な物価の上昇には、景気回復による個人消費が拡大し、需要が増える必要がある。現金給与総額は前年比減少している月も多い。賃金の上昇は個人消費の活性化とともに、人件費アップを通じ外食などサービス物価を上昇させる効果もあり、物価を占う意味でも今後の焦点となりそうだ。
一方、デフレは、地価や株価等の資産価格においても進行している。公示地価は、91年をピークに15年連続下落し、ピーク時に比べほぼ半分になった(東京都区部では、ピーク時に比べ、住宅地が62.6%、商業地は80.1%になっている)。しかし、07年の公示地価によると、全国平均で住宅地、商業地とも16年ぶりの上昇となった。地方圏では引き続き下落傾向にあるが、三大都市圏の都心部では、上昇率が3割や4割を超える地点が見られる。これは、企業のオフィス需要の増加、不動産投資の拡大、再開発の進捗などが背景として挙げられる。
株式資産額は、最近の株式市場の活況もあり、バブル末期の90年末の株式資産額に比べ、7.9%減に留まっており、地価の下落ほどではなく、資産デフレの一因であった株式については解消されている(05年時点)。
株価(日経平均株価)は、06年4月には2000年7月以来となる17,000円半ばまで回復した。大きな流れで捉えた場合、03年4月の安値の7,607円をそことした景気回復局面における日本株の上昇トレンドが継続している。
(物価のデフレは、企業の実質債務負担の増加、企業の設備投資の抑制、実質金利の上昇、そして、実質賃金の上昇をもたらす。そして、資産価格のデフレは、バランスシートの悪化、資金調達の困難化による設備投資の抑制、逆資産効果による消費の抑制をもたらす。)
3 格差社会 − ジニ係数0.5超と最大に
厚生労働省によると、世帯ごとの所得格差の大きさを表す05年のジニ係数が0.5623で、過去最大になった(「05年所得再分配調査」)。同省は、一般的に所得が少ない高齢者世帯の増加が主な要因と見ているが、非正規社員と正規社員の所得格差などが影響している可能性も否定できないとしている。
同調査は3年ごとに実施されており、ジニ係数は0〜1の間の数字で表され、格差が大きいほど1に近づく。今回の調査では、ジニ係数は前回を0.028上回り、初めて0.5を超えた。例えば、全体の25%の世帯が所得総額の75%を占めた場合に、ジニ係数は0.5となる。
公的年金など若い世代から保険料を徴収し、高齢者に配分する社会保障の効果を加えると、ジニ係数は0.3873で前回を0.0061上回って過去最高だった。ただ、前回、前々回とほぼ同水準であるため、厚労省は社会保障の効果も加味すれば格差に大きな変化はないともいえるとしている。 また、親との同居が多いフリーターらを独立世帯みなすと、もっと上昇する可能性が 高い。
4 07年度経済財政白書(8/8) ***
2007年度の経済財政白書は、副題に「生産性上昇に向けた挑戦」とし、少子高齢化の中で経済成長を続けるためには、企業が一層生産性を高める必要があると訴えた。戦後最長の景気回復を続ける日本経済の現状については、企業部門から家計部門への波及が緩やかになっていると懸念を示した。賃金伸び悩みの背景にある非正規社員の増加と格差問題を分析している。
(a)M&A企業7割「検討」
上場企業を対象にしたアンケート調査では、生産性を上昇させるために合併・買収(M&A)を検討すると回答した企業が7割を超えた。収益性の高い企業ほどM&Aに積極的である。一方、自社が敵対的買収の標的になることは、50.8%の企業が「弊害が多いため避けたい」と考えていることが分かった。「上場企業であれば当然」と答えた企業は、20.5%にとどまった。具体的な弊害は、「意図しない経営戦略の転換を余儀なくされる」(79.1%)、「長期的視点に立った経営戦略が困難になる」(68.2%)が、上位に挙がった。
(b)上がらない賃金
雇用は改善しているのに賃金が上がらない原因については、パートやアルバイトなどの非正規社員の増加などを列挙した。
まず、賃金の低い非正規社員の割合が増えているため、一人当たり賃金は、06年から四半期ごとに前年同期比で0.2%程度押し下げられていると試算した。また、高賃金の団塊の世代の大量退職では、60歳以降に働かない場合、全労働者の賃金を06年7〜9月期から四半期ごとに前年同期比で0.2%強、押し下げる要因になる。民間に比べ高かった地方公務員の賃金引下げも、全体の賃金伸び悩みの原因と指摘した。
デフレからの脱却が遅れていることも、賃金が伸び悩む一因であるとした。日本で消費者物価が上がらないのは、サービス価格の横ばいが続いているためだとした。サービス業で賃金が上がれば、人件費コストが上昇してサービス価格に波及し経済全体として安定的に物価が上昇するとした。
(c)格差の是正
白書は、各国の格差是正の取り組みとして、課税などによる所得の再分配効果を挙げた。各国とも、税収を年金や医療、生活保護などの社会保障給付に振り向けている。この再分配の割合が高いほど、格差是正に効果が出ているとされる。
高福祉・高負担の北欧諸国は、再分配率が30%を超え、市場経済型のアメリカは16.7%(2000年)で、日本は02年の統計で23.5%だった。海外の事例を参考に、社会保障給付と所得税の税額控除(納税額から一定額を差し引いて税金の額を軽減)の組み合わせにより、低所得層の労働意欲を高める政策を日本でも検討すべきだと提言した。
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