インフォーメーション・サービ115:2007年度対策 経済事情 連載第12回[中国の社会主義市場経済]
W 東アジア経済
(1)90年代の中国経済
実質GDP成長率は、直接投資の受け入れなどにより、92〜95年まで二桁の成長であった。しかし、消費者物価上昇率が高くなり、93年以降引き締め政策が行われ、96年以降消費者物価上昇率は抑制された。一方で、成長率は高く維持され、結局、90年代の平均成長率は、9.7%であった。
(2)2000〜2002年の中国経済
90年代後半、高成長とはいえ、成長率が年々鈍化する中で、98〜99年に続き2000年も国債発行により公共投資を増加させ、2000年の実質GDP成長率は8.0%と高い成長となった。2001年は、積極的な財政政策が行われたが、世界経済の後退により、輸出が伸びず、7.3%の成長となり、前年より低下した。
しかし、2002年は、積極的な財政政策、アメリカ向けを主とする輸出の増加、そして、それによる鉱工業生産の増加などにより、実質GDP成長率は8.0%の高成長となった。そして、2001年11月に、WTOに加盟し、外資系企業の輸出規制が緩和されたことも、輸出の拡大を促進したといえる。
(3)2003〜2005年の中国経済
2003年は、前半はSARSによる個人消費の低下により、成長は鈍化したが、年後半は回復し、実質GDP成長率は10.0%の高成長であった。高成長の主な要因は、企業の設備投資や不動産投資などの固定資産投資の増加であり、前年比26.7%増加した。
固定資産投資の急速な増加による景気の過熱が懸念されているが、中国人民銀行は、銀行貸出金利の上限引上げや法定預金準備率引上げなど、様々な金融引締め措置を行った。そのため、2003年末に固定資産投資の伸びが一時鈍化した。
2004年の実質GDP成長率は10.1%と、前年と同様に、アジア通貨危機以来最も高い成長となった。固定資産投資が経済をけん引したが、輸出や消費も成長に寄与した。固定資産投資は、一部業種での投資過熱懸念に対し、直接規制や、前年と同じく金利引上げなどが行われ、伸びが抑制された(2004年第一四半期は前年同期比47.8%の伸びであったが、04年全体では27.6%の伸びまで抑制された)。
2005年の実質GDP成長率は、投資と外需にけん引され、10.2%と3年連続10%台の高成長であった。不動産や輸送などのインフラ分野の投資が伸び、固定資産投資は前年比名目で25.7%増となった。貿易黒字は、1,020億ドルと前年の約3倍となった。これは、輸出が堅調に伸びた一方で、政府が金融引締め政策を行ったことや、供給過剰により輸入が大幅に鈍化したためである。
投資過熱懸念に対し、06年4月にも法定貸出金利が(1年もの)5.58%から5.85%へ引上げられ、政府は引き続き金融引締め政策を強化するとしているが、当面は堅調な世界経済のため、輸出が増加するなど高成長は続くものと見られる。
(4)貿易摩擦による人民元引上げ
輸出は年々増加し、2004年には日本とアメリカにとり、中国は最大の輸入相手国となった。特に、アメリカにとっては中国は最大の貿易赤字相手国である。そのため、アメリカは、人民元の為替レートの引上げを迫っていた。その結果、中国政府は、2005年7月に、ついに人民元の2%引上げを決定した。しかし、小幅な引上げであったため、その後もアメリカの人民元引上げの圧力は継続していた。
1月初めの上海外国為替市場での人民元相場は、対ドルレートが1ドル=7.7949元で取引を終え、一昨年7月の人民元切り上げ後、初めて7.7元台まで元高が進んだ。ドルに連動している香港ドルとの交換レートも、同日終値で0.99961元となり、初めて1元の価値が1香港ドルを上回った。 05年7月に切り上げられ、1ドル=8.1100元となった後、06年5月に初めて1ドル=8元を突破し、その後も緩やかな上昇を続けていた。香港ドルの価値を上回るかどうかは、8元に続く二つ目の心理的なハードルといわれていたが、市場では元の先高観が出たと受け止められている。
(5)2001年にWTO加盟
WTO協定は、最恵国待遇(すべての加盟国への平等な待遇)と内国民待遇(加盟国を自国より不利に扱ってはならない待遇)を原則とし、外国のモノ、人、企業の差別を禁止している。それゆえ、中国の市場経済の機能と透明性を強める役割を果たしている。
協定の主な内容
a.全品目の単純平均の関税率を、98年の17.5%から2010年には9.8%へ引下げる。
b.農産物は、同時期に22.7%から15.0%に引下げる。
c.IT関連製品は、関税率を2025年頃には最終的に0%にする予定ある。
d.農産物の補助金の上限を、加盟後は農業生産額の8.5%とする。
e.銀行、保険、流通、電気通信は、外資規制の削減、撤廃の方向とする。
(5)伸びる中国への直接投資
中国の高成長を支えているのは、直接投資の拡大である。特に、WTO加盟が中国への直接投資を加速した。2001年以降、景気後退により世界の直接投資が減少したにもかかわらず、中国への直接投資は増加を続けた。2002年に、中国の直接投資実行額は、500億ドルを超え、アメリカを上回る世界一の直接投資受け入れ国となっている。 34
この海外からの直接投資の増加が、中国の経済成長を大きく促進している。2001年の鉱工業生産額に占める外資系企業の比率は、28.5%に上っている。特に、電子通信機器の外資系企業の生産比率は74%も占めている。
また、外資系企業の雇用機会の創出も大きなものがあり、外資系企業の従業員は、2001年末には671万人に上っている。
(6)地域格差の発生
高成長を達成してきた中国であるが、一人当たりGDPで約13倍という地域間格差が発生している。2001年の一人当たりGDPは、上海市では34,547元であるが、貴州省はこの約13分の1である。また、2004年には、都市住民の所得は、農民の所得の3.2倍である。
2005年の全人代(国会)において、温家宝総理は、この問題解消のため、畜産税は全面免除、5年以内に廃止が予定されていた農業税(平常作柄の一年の収穫高により課税される国税)の廃止時期を3年以内に短縮するとした。財政赤字を抱える中でこのような措置を打ち出すのは、農業重視の姿勢を示したものといえる。