インフォーメーション・サービ101:2006年度対策 経済史・経済事情 連載第14「世界貿易機関(WTO)と自由貿易協定(FTA)」
]W 世界貿易機関(WTO)と自由貿易協定(FTA)
1 世界貿易機関(WTO)の発展(1) 残る貿易障壁の削減のうえに、このような新分野についても交渉を進めることが合意されたのが、GATTウルグアイ・ラウンドであった。ウルグアイ・ラウンドは、7年以上の交渉の後、94年4月に合意され、市場アクセス分野やルール分野で多くの合意がなされた。例えば、先進国の平均関税率の40%引下げや紛争処理手続きの迅速化などである。
(2) ウルグアイ・ラウンドで合意された内容を実施するために、95年に76の国・地域の参加により、世界貿易機関(WTO)が設立された。WTOには、紛争解決規則および手続きの運用、貿易に関する加盟国間の交渉の場、各国の貿易政策の審査などの機能もある。2005年12月末現在で、WTOは149カ国・地域が参加している。
(3) GATTが主に物品の貿易のみを扱ってきたのに対し、WTOはサービス貿易、知的所有権(ソフトウェアやバイオテクノロジーなど)、直接投資などの新分野も対象としている。
(4) 2001年11月の閣僚会議で、新ラウンドの開始が宣言された。全体を統括する貿易交渉委員会の下に、次の5つの交渉グループが存在する。
a.農業 b.サービス c.鉱工業品 (a〜cは市場アクセス)
d.環境保護と貿易の関係 e.WTOの既存ルールの見直し
(5) 2003年9月のメキシコでの閣僚会議で交渉は一時決裂したが、2004年8月に、WTO一般理事会は、新ラウンドの今後の枠組みを定めた「7月合意」最終案を正式に採択した。その後は、農産物の関税率などを決める細目の交渉に入る。この合意の背景には、また合意に失敗するとWTOは崩壊し、貿易秩序作りの流れはFTAに移行するとの危機感があった。 7月合意の骨子は、次のとおりである。第一に、途上国が要求していたEUなど先進国の農産物輸出補助金の全廃につながる歴史的な内容である。まず、初年度は、20%削減する予定である。第二に、農産物の関税引きげ方式は、「階層方式」を採用し、輸入関税を高関税品目ほど大幅に削減する。第三に、日本のコメなど先進国が高関税を保ちたい重要品目については、各国の事情に応じ適切な品目数を選べるとし、食糧輸入国への配慮が行われた。ただし、重要品目については、低関税輸入枠の拡大と関税削減の組合せにより、市場参入の改善が求められた。日本はコメなど重要品目への一定の配慮を確保できたため、この合意を歓迎している。
2 FTAとWTO―経済連係の進展
日本の貿易の自由化は、GATT(関税および貿易に関する一般協定)とWTO(世界貿易機関)により推進されてきた。しかし、近年、特定の国・地域において、FTA(自由貿易協定)を締結する活発な動きが見られる。日本は、2002年にシンガポールと、2004年にメキシコとFTAを締結した。そして、アジア各国やASEAN(東南アジア諸国連合)全体との経済連携に関する協議に積極的に取り組んでいる。
(1) FTAの90年代以降の顕著な増加
FTAは、地域的な貿易自由化を目指すものであり、加盟国間での関税撤廃を基本とする協定である。そのため、WTO(世界貿易機関)規定とその解釈においても、次の事項が条件とされている。@ 加盟国は、実質的にすべての貿易の自由化を行うこと
A 自由化は、10年以内に行うこと
B 締結前後で、関税等がより高度または制限的なものであってはならない
すなわち、WTOは、世界の貿易の無差別の自由化を原則とするものであるが、FTAについても高度な自由化を推進するものであるならば、世界貿易の自由化につながるものとして、例外的に認めている。 このようなFTAは、90年代以降著しく増加している。WTOに通報されているFTAなどの経済連携は150件であるが、90年代以降に締結されたものが大半である。欧米先進国によるNAFTA(北米自由協定)やEU(欧州連合)により、FTAの取組みは加速したが、最近は途上国の関係したものや地域横断的なものも増加している。
(2) WTOの拡大と交渉の停滞
(3) FTAによる自由化の進展GATTを引き継ぎ、貿易の無差別原則(最恵国待遇・内国民待遇)(1)などを基本ルールとするWTOの交渉には、近年、若干の停滞が見られる。その一例として、ドーハラウンドの交渉促進を狙ったメキシコのカンクンでのWTO閣僚会議(2003年9月)の決裂が挙げられる。主要交渉分野の合意が難しくなり、閣僚宣言の採択が見送りとなってしまったのである。
このように、交渉が進みにくくなった背景には、93年のウルグアイ・ラウンド妥結以降において、次のような変化が生じていることがある。
第一に、加盟国数の拡大である。GATT体制下のケネディラウンド(1964〜67年)では、参加国数が62カ国であったが、2001年以降のドーハラウンドでは、149カ国・地域へと大きく増加している。特に、途上国の増加が中心であった。その結果、参加国の利害が一致しにくくなり、交渉の合意達成が容易ではなくなったのである。
第二に、自由化対象の拡大である。世界経済の発展により、財の貿易だけでなく、サービス貿易や投資に関する自由化についても、交渉対象となってきた。また、これまで対象外とされてきた農業分野も、ウルグアイ・ラウンドで農業合意が行われ、交渉の対象となってきた。さらに、競争政策や知的財産保護などの国内措置も対象に加わるなど、多角的自由貿易体制におけるルール作りが進められている。このように、交渉分野が広くなっていることも、交渉を進みにくくさせている。
それゆえ、WTOが貿易を一層推進していくためには、このような要因を考慮して対応していかなければならない。
注(1) 最恵国待遇とは、すべての加盟国に平等な待遇を与えることである。そして、内国民待遇とは、自国企業より不利に扱ってはならないことである。
90年代後半に、FTAが急増している要因は、次のものが挙げられる。
@ WTOの迅速な合意形成が困難である。
A 利益を共有する国同士が、自由化の利益を先取りする動きが生じている。
最近のFTAの新しい流れとして、関税の撤廃などの伝統的な貿易自由化だけでなく、投資、競争政策、知的財産、政府調達、人の移動の円滑化、電子商取引、環境、労働関連制度の調和等にまで、協定の対象が拡大している。
このように、連携を深め、新分野のルールを二国間で協定することは、次のようなメリットがある。
@ 域内での幅広い経済活動の自由化と円滑化の促進
A 各分野の制度構築のノウハウを蓄積し、多角的交渉の場で利用できる。
しかし、FTAが手放しでよいものではなく、最大のポイントはWTOの理念が維持できるかどうかである。すなわち、多角的自由化の維持・強化につながるかどうかである。FTAを推進するには、これに十分配慮することが重要である。
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